こんなシーン

沈丁花の香りがどこからか訪れる3月のはじめ
いつもの下校 ふたりで歩く
『この並木道が終わるまでに“告白”だ』
そう決めてかれこれ2週間・・。
またいつものように他愛のない会話が始まっている
でも今日はタイミング無視でいくと決めたんだ
「あの・・」
「ん?なぁに?」
「うんと・・ 卒業が近いよね だから・・ その・・」
「どうしたの?」
「いや・・・」
その時足になにかがぶつかる
「すいませ〜ん ボールとって下さ~い」
いまどきこんなシーンあるんだ・・
などと思いつつボールを投げる
「ありがとーございまーす」
「おぉ がんばれよ〜」
「いまどきこんなシーンあるんだね」
と彼女が言う
同じこと考えてたことに一瞬驚きながらも
「そ、そうだね」
と慌てて返す
「で、卒業だから何なんだっけ?」
「あ えっと・・ その・・」
そのとき
「すみませんねぇ ちょっと道をお尋ねしたいのですが・・」
振り向くとおばあさんが道に迷ったらしい
「・・そうですねかぁ この先を左に曲がったらすぐですか 
ありがとうございますねぇ」
「いえいえ ほんとに一緒に行かなくていいですか?
お気をつけて」
また“こんなシーン”があるなんて・・
「また“こんなシーン”だね」
と微笑む彼女
また同じこと考えてたのか
「えっと なんだっけ?何の話だっけ」
ここはもう言わなければと思った瞬間
「あ・・ 」と彼女
見ると、木の枝に風船がひっかかっている
その下で女の子が上を向いている
「まじ?・・ 本日3回目だよ “こんなシーン”」
さすがにぼくも笑いながら
「そうだね ええっとここは取ってあげるパターンだよね」
軽くジャンプして女の子に渡す
「はい しっかり握ってるんだよ」

バ〜ン

「わっ!」
いきなり風船を割る女の子
びっくりしていると風船から出てきたらしい手紙?を渡される
「あっ、ちょっと・・」
駆け出して行ってしまう女の子
彼女を見ると「読んでみたら?」と一言
いろんな疑問符を浮かべつつ開けてみると

『じれったいからワタシから言うね うんと・・』

そこには彼女からの告白の言葉が書いてあった
びっくりして顔を上げると
彼女はずっと先で笑いながら手を振っている
並木道の終わるところで

後で聞いたのだが“ボールとってください少年”は
彼女の弟で
“迷えるおばあさん”は彼女のおばあちゃん
“風船少女”は妹だったらしい
みんなで仕組んだ彼女の“照れ隠し”のドッキリだとか・・
そしてみんなのぼくへの“人柄チェック”も入ってたとか
合格らしい。
じれったかった自分には情けなくて不合格だけどね・・ははは。

曲『合格じゃぞい』迷えるおばあさん

#恋 #合格 #3月 #こんなシーン

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