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なぜ「どついたれ本舗」はダサいのか

ヒプノシスマイクのコミカライズで「どついたれ本舗」の結成秘話が掲載される前に書いたnoteです。

こんにちは。今日はヒプノシスマイクについて考えた事を書きたいと思います。なかなか過激なタイトルになってしまいましたが、御容赦ください。

でも「どついたれ本舗」って、どうしてもダサいですよね。キャラクターはカッコイイ。声もカッコイイ。設定もカッコイイ。私はこのチームが、ヒプマイディビジョンの中で最も好きなのです。むしろヒプノシスマイクにハマったのは彼らがきっかけであるほどです。なのに何故、チーム名だけがこんなにダサいのか。今日はこれについて考えた事を書いていきたいと思います。

先に、どついたれ本舗を知らない方の為に軽く説明します。どついたれ本舗とは、ヒプノシスマイクというサブカルチャーコンテンツに登場するチームの名前です。ヒプノシスマイクとは声優がラップをする事を売りにした企画です。

ヒプノシスマイク -Division Battle Anthem- +

ヒプノシスマイク -Division Battle +-

その企画の中の設定として、オリジナルキャラと、そのキャラ達によって編成された地域にごとのHIPHOPチームが存在するのです。

Hoodster

池袋のチー厶「Buster Bros!!」。横浜のチーム「Mad Trigger Crew」、渋谷のチーム「Fling Posse」、新宿のチーム「麻天狼」、名古屋のチーム「Bad Ass Temple」

からの、大阪のチーム、「どついたれ本舗」

なんでやねん。

ヒプノシスマイクを全く知らない方でも、この違和感は伝わるでしょう。バスターやマッドなど過激な英語や、摩天楼を麻天狼と表記する洒落た当て字……………からの「どついたれ本舗」

何?いきなりどうしたの?お店?どこ?…そうなりますよね。一応「どついたれ」と強い言葉は入っているのですが、大阪弁でのそれはギャグちっくさを助長し、コミカルになってしまっています。そんなに賢そうにも見えません。同じレベルの言葉だとまだ「ぶっ飛ばす本舗」とかの方が戦闘力は高そうです。

しかもロゴを見てください。

ヒプノシスマイク公式サイトより作成https://hypnosismic.com/character/  



スタイリッシュにデザインされた銃と骸骨を標榜するMad Trigger Crewやこちらを威嚇する狼の麻天狼。デューラーの『祈る手』をモチーフにしたBad Ass Templeなんかは人知を超えた力が背後にある事を仄めかします。それに対してまるでドラえもんに出てきそうなコミック調の手に握られたハリセンのどついたれ本舗。なんでやねん(2回目)。それで対抗出来ると思っているのでしょうか。

コミック調という点ではFling Posseもそうですが、Fling=「投げ捨てる」Posse=「仲間」というやや不穏な空気がただよっています。一見可愛らしい響きながらも、不穏な空気を纏うFling Posseに対し、どついたれ本舗には「他のディビジョンをどついたるチームやで」と字面通りの意味しかない事は明らかです。いや正直者か。チームメンバーの詐欺師は何をしているのでしょう。  

口に出しても、Bad Ass TempleやBuster Bros!!ような語感の良さもありません。つまり「どついたれ本舗」という名前には、全体的にどうにも締まらない、間抜けな空気が漂っています。字面だけだとどう見ても最弱です。  

そんな感じなので、大阪ディビジョン(ヒプマイ世界ではチームをディビジョンと言います)が発表されたときも多くの人が混乱しました。「え?何?ギャグ?」と。現在どついたれ本舗は非常に人気ですが、これほど人気になった今でも「オオサカディビジョンの名前はダサい」という意見は検索すると沢山出てきます。「オオサカディビジョン ダサい」「どついたれ本舗 ダサい」でTwitterで検索掛けてみてください。

さて、本題に入ります。

私も当初、「どついたれ本舗」という名前をダサいと思っていました。

しかし先日、Apple Musicをいじっていてふと気がついたのです。「真心ブラザーズって、名前クソダサいけど曲カッコイイんだよな」と。ロック好きな私のApple Musicには様々なバンドが入っています。そこでライブラリを見ると、あるわあるわダサい名前。

しかし、そのダサい名前を冠するバンドはどれも最高にカッコイイのです。

ガガガSP、銀杏BOYZ、X JAPAN、ザ・クロマニョンズ、BUCK-TICK、筋肉少女帯、OKAMOTO'S、サンボマスター、ゆらゆら帝国、the Kebabs………  

そこで気がついた事として、彼らの音楽のカッコ良さはその気の抜けたダサい名前によって昇華されているのではないか、という事です。

例えば「〇〇(良い名前のバンド)で夜王子と月の姫」と、「銀杏BOYZで夜王子と月の姫」では、ギャップがあるのは後者です。前者の夜王子は【オシャレ×綺麗=素敵ソング】と予想ができますが、臭い食べ物でを連想させる銀杏BOYZから飛び出る夜王子は【臭そう×綺麗=????】と興味を引かせます。そしてそこでいい演奏をすると、バンド名の先入観からのギャップによりよりガツンと衝撃が来るのです。X JAPANなんて名前から紅を演奏されたら、そりゃあ好きになっちゃいます。

また、ダサいバンド名は、余裕さすらも感じさせます。The Kbabsとかまさに。「どんな名前でも曲が良ければ受け入れられる。バンド名のカッコ良さに頼らなくても音楽で聴衆の心を掴める」という実力に裏打ちされた余裕、自信が感じ取れます。もちろんこれで格好のつかないパフォーマンスをしたらそれはただの格好悪い奴なので、両刃の剣とも言えるでしょう。

あとダサいバンド名にはかっこよくてオシャレミュージックやオシャレミュージシャンへの引け目というか、一抹のシャイさや謙虚さも見えて可愛いです。「いやいや、俺たちそんなオシャレな奴らじゃないでしょ。イケてる女子高生が聴く音楽は作れないよ」みたいな。

つまり、「どついたれ本舗」という名前には"実力者が肩の力を抜いたユニークなグループ名にあえてする事で生まれる、おっさんの余裕と遊び心"が存在するのです。

その事に気づいて、私は「どついたれ本舗」という名前がぐっと好きになりました。ダサかっこいい、を目指しているのではないでしょうか。  

音楽番組における「Mrs. green apple、あいみょん、King gnu、ザ・クロマニョンズ、米津玄師」という並びの中の「ザ・クロマニョンズ」。恐らく立ち位置としてはこの辺なんですね、どついたれ本舗は。  

さて、そんなどついたれ本の構成メンバーは

26歳/お笑い芸人/白膠木簓(ぬるでささら)

26歳/教師(元お笑い芸人)/躑躅森盧笙(つつじもりろしょう)

46歳/詐欺師/天谷奴零(あまやどれい)です。

全員いい歳の社会人であり、全ディビジョンの中でもチームの平均年齢は最年長です。

さて、先程ダサい名前で悪いパフォーマンスをするとたどの格好悪い奴。しかしダサい名前で良いパフォーマンスをすると株は跳ね上がり求心力を持つと言いましたが、それは正にどついたれ本舗もやった事です。

ヒプノシスマイクは、プロのヒップホッパーから曲を提供してもらうというのが目玉でもあります。ナルトの主題歌を担当したことで有名なNobody knows+やHOME MADE 家族、有名なラッパーDiggy-moなど、錚々たるメンツです。

そして、どついたれ本舗のディビジョン曲の作曲を担当したのは、Creepy Nutsでした。これにはHIPHOPファンにもヒプマイファンにも激震が走りました。Creepy Nutsは、大会で世界一に輝いたDJ松永と、日本一に3連続輝いたラッパーR-指定によるユニットです。つまり実力者の中の実力者なのです。最近はよくテレビにも登場しています。代表曲のリンクを貼っておきます。個人的は「ぬえの鳴く夜」と「紙様」が好きです。  

https://youtu.be/UVaZf3GliDs

さて、そんな彼らがどついたれ本舗に提供した曲がこちら

https://youtu.be/cB1e1wT8eJY

メロディや歌詞の良さ、聴いていて気持ちの良い韻の踏み方は当然として、散りばめられたメッセージ性や関係性など、ヒプマイを詳しく知っていればいる程、「どうしてここまで韻を踏みながらキャッチーに違和感無くヒプマイ要素を盛り込めるんだ!?」と衝撃を受ける一曲なのです。私はこの楽曲にハマり、それまでは表題曲2曲しか知らなかったしキャラも設定もロクに知らなかったヒプマイにすっかりハマりました。まだ勉強中ですが。

なのにこのタイトル!

「あゝオオサカdreamin' night」!!

これこそ正に実力に裏打ちされているからこそできるあえて芋臭い曲名!かっこ良過ぎますね。「どついたれ本舗」というダサいチーム名に「あゝオオサカdreamin' night」という芋臭い曲名。しかしその中身はキャラも設定も曲もかっこいい、それがどついたれ本舗です。焼き芋のように、冴えない皮の中身は黄金、これこそが現在に至るどついたれ本舗人気の理由なんじゃないかと思います。

「どついたれ本舗はダサい」と言う方、想像してみてください。オオサカディビジョンがスタイリッシュな名前で、スタイリッシュなタイトルのディビジョン曲を歌っていたらここまでの魅力が出たでしょうか。少なくとも私の場合は、そんなオオサカではソツがなさすぎてハマることはなかったでしょう。


また、「どついたれ本舗」というのは、本人たちの感覚としてはラップチーム名ではなくお笑いコンビ名に近いのだとも思います。どつ本の構成メンバー、うち2人はかつてお笑いコンビでした。そして、「あえて肩の力を抜いたユニークな名前」はお笑い芸人にこそよくあるものなのです。ダチョウ倶楽部、ウッチャンナンチャン、さまぁ〜ず、ビビる大木、雨上がり決死隊、メイプル超合金、ゆりやんレトリィバァ、などなど。

実際に、

Buster Bros!!、麻天狼、Bad Ass Temple、どついたれ本舗

という並びだと「ん?」と違和感が生まれます。ですがどついたれ本舗と他のお笑い芸人と並べてみましょう。

サンドウィッチマン、メイプル超合金、千鳥、どついたれ本舗

こうすると何も違和感がありません。ダサいとも思わない、ごく一般的なコンビ名のようです。エンタの神様に出演して「ヘイター躾ける笑いのブリーダー!どついたれ本舗〜〜!!」って紹介されてそうです。

逆に、

サンドウィッチマン、メイプル超合金、千鳥、どついたれ本舗、Mad Trigger Crew  

こうなると違和感があるのはどついたれ本舗ではなくMTCとなるのです。つまり、どついたれ本舗はHIPHOPユニット名ではなくコンビ名だからディビジョンの中で異様に浮いているだけで、所変われば一般的な名前であるとも言えます。

(2020.4.17追記)
ヒプノシスマイクのコミカライズで「どついたれ本舗」は盧笙と簓が組んでいたコンビの名前であったことが判明致しました。

ところで、違和感というのは重要な笑いの種ですよね。ということは、「どついたれ本舗」という存在の違和感は、ディビジョンバトルにおける「ボケ」なのです。

「周りがカッコイイ名前とロゴを背負ってる中で、『どついたれ本舗』ってダサい名前にハリセンってどないやねん!」と観客にツッコませる。

"常識"の他ディビジョンと、そこに"違和(ボケ)"のどついたれ本舗、それに"ツッコミ"をせざるを得ないら観客(リスナー)という構図が生まれます。

その時点でディビジョンバトルは「どついたれ本舗の漫才」になってしまうのです。

殺伐とした戦いの場に場違いなコンビ名のおっさんたちが登場する。彼らは存在するだけでボケ続けます。そこに常識(ツッコミ)がどんな攻撃を仕掛けても、それはボケにツッコんでいる形になり、漫才になってしまいます。

つまり「どついたれ本舗」という名前を冠しているだけで、試合の勝ち負けに関わらず、オオサカディビジョンが存在しているバトル会場は「どついたれ本舗の漫才を披露する舞台」にならざるを得ないのです。


そしてどついたれ本舗が勝ったら「ハリセンが拳銃に勝ちおったw」と笑いを取り、

負けたら「どつくんじゃなかったんかい、これじゃどつかれました本舗やないかw」と笑いを取る。

ラッパーとしては負けるかもしれないけれど、芸人としてのどついたれ本舗は試合場に現れた瞬間に勝ちが確定しているのです。

それって、凄く渋くてカッコいいんじゃいかなと、「どついたれ本舗」というクソダサい名前を見て考えました。

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