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ザ・メッセージ 連載完結

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ザ・メッセージ という連作です。一つのエピソードは一万字以内で一編を3つから4つくらいのパートに分けています。病院を舞台に言葉を発することができない患者さんと意識の中で対話をする… もっと読む
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記事一覧

ザ・メッセージ 1

 ことのはじまり①わたしはすずめ。親のない施設で育った。本名は宮下雪乃、だけどこの名前は雪の日にお宮さんで見つかったからっていうことで施設で付けられた名前。だから馬の骨なのだ。それも正真正銘の。

高校までは施設の援助で行かせてもらって今は働きながら看護学校に通ってる。けっして楽しくはないけど、得るものも多かったかな?

何を得たの?って訊かれると何て答えよう。孤独と世間の冷たさとそれから愛情。今

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ザ・メッセージ 1

ことのはじまり②ああ、とんでもないことになっちゃった。意識がないとされてる患者さんと話ができるなんて。

八条病院はドクターもナースもいい人ばっかなんだけど、さすがにこれを話せる人はいない。友だちっていえるかどうかって人はいるにはいるんだけどね。だいたい私は口数の少ないタイプ。みんなもそういう認識を持ってるに違いない。こういうのって友だちできにくのよね。仕方ないけど。どうしてそうなのか、真剣に考え

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ザ・メッセージ 1

ことのはじまり③家に帰るとやっちゃんはもう家にいた。やっちゃんは安田知之。施設で中学くらいまで一緒に育った、言わば兄妹みたいなもんなんだけど、そこは年頃も同じだからお互いに牽制はしてたかもね。でもお互いをよく解ってもいる。今はとんかつ屋さんで店長してるの。

「ねえ、こないだから言えなかったことがあるんやけど聞いてくれる?」

「なんや改まって」

「ちょっと深刻やねん」

「うん」

「今、交通

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ザ・メッセージ 1話完

ことのはじまり④ところが、仲良くしてもらってるナースからLINEで川原田さんのご家族が来られたとの連絡が入って、ぶっつけ本番で意思疎通を試みることになったの。

雪乃はこっそり川原田さんの部屋を訪れた。

「いきなりすみません。私、川原田さんの友人です。それがどういうわけか彼と話ができるんです」

「は?どういうことですか?」

「ご不審はごもっともですが、とにかく一度聞いてください」

『川原田

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ザ・メッセージ 2

親と子①久しぶりのICU。気が重い。何故ってわかるでしょ。ここには意識がないとされてる患者さんが必ずひとりはいらっしゃるの。また声が聞こえたらどうしよう。それだけが気がかり。あの時はたまたま波長が合っただけ。そうであってほしい。

今日、意識のない患者さんはお二人。ひとりはクモ膜下出血で昨日入院された43才の女性。若いのに・・・。40才を超えたらぐんと可能性が高くなるから気をつけないとね。普段から

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ザ・メッセージ 2

親と子②5日経った。

今日は瑠伽君のとこと山崎さんのフロアなんよね。

まずは瑠伽君のとこ。

「失礼します。お加減はいかがですか?」

「はい。相変わらずお熱が高いです」

雪乃は冷却剤に触れてみた。もうあったかくなってる。

「この枕、あったかくなってますね」

「そう?それってすぐに溶けるのよね」

「この枕が冷たいと脳に行く血流が冷やされるのでずいぶん違うと思うんですけど」

そう言うと

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ザ・メッセージ 2

親と子③3日経った。

瑠伽君は順調に回復しているらしい。ちょっと様子を見に行こ。

「失礼します。どうですか?お加減は」

「あ、あの時のあなた。もうすっかり。あの日からみるみる良くなって」

「はい。よかったですね」

「もう元気になったで。明日、退院やて」

「そう。よかったやん」

「うちの者みんな喜んでいます」

「よかったです。お子さんの病気は心配ですよね」

「あなたがしっかり枕のこ

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ザ・メッセージ 2話完

親と子④山崎さんの病室。やっぱり緊張するな。四人部屋なのね。患者さんは3人だけど、今は幸か不幸か山崎さん、お一人だけ。

「失礼します。お掃除させていただきます」

静まり返っている。不気味。

「山崎さん、回復されてよかったですね」

『何言うてんの。こんな半端な身体になって子どもも取られて、もう死んでしもうた方がよかったわ』

『ほんとにそうですか?』

『あんたか、話してた相手は』

『だい

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ザ・メッセージ 3

亡者(もうじゃ)①このところずっといいお天気が続いていたけど、今日は久しぶりの雨。嫌いなんよね。雨。

雨さえ降らなきゃ少しくらい寒いのも暑いのもガマンするよ。でも雪は好き。わたしはたぶん雪の日に生まれたんやろな。雪乃って名前は違うよ。これは施設の人が付けてくれたんだから。でも今では感謝してる。大好きなやっちゃんが好きって言ってくれるから。

病院の朝は慌ただしいのよ。外来があるからね。わたしはま

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ザ・メッセージ 3

亡者②三日経った。

また今日もICU。気が重い。まずはターミナルからね。

「失礼します。山下さん」

あ、おやすみだ。

お約束だから近くで呼んでみる。

「やましたさん」

「ああ、おお、来てくれたんやな。寂しかったわ。この3日ほどは。毎日来てくれるわけにはいかんのか」

「はい。私たちみんなシフトで動いてるんですよ」

「そうなんやな。師長さんと話してみな埒開かんなぁ。そや彼氏はどうやて?

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ザ・メッセージ 3

亡者③「失礼します」

『まだいやがんのか!』

息子さんたちの来訪で興奮してらっっしゃる。心臓にはよくないのに・・・

『遺言書なんか、おまえらが探してみつかるかい。おばあに預けたるわ』

『すみません。お掃除です。あまり秘密を話さないでください』

『ああ、こないだのあんたか。すまんかったな、こないだは無理言うて』

『いえ、大丈夫です』

『弁護士に来てもろてもどうしようもないことがわかった

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ザ・メッセージ 3話完

亡者④朝の10時半にやっちゃんのお店の従業員さんが隠しカメラを届けてくれて、取り付け方を説明してくれた。それといくつかの注意事項も。

今日はICUの日やないけど、行かなきゃ。

「寺山さん。起きてはります?」

あ、さすがにおやすみか。まいっか。仕掛けとこ。

小さい置時計型の隠しカメラ。全くわからないわ。凄いのね。それからいくつかの注意事項も忘れずに。

これでよし。でもこのカメラ、録画が6時

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ザ・メッセージ 4

喪失①一時危篤状態だった川上進次郎さんがターミナルに移ってこられた。やっぱり癌だった。発見された時には内蔵のあちこちに転移していてどこから発症したのかわからないんだそうなの。そんなこともあるんだ。

だけど危篤状態から、意識が戻るまでに回復なさったのは奇跡的だって。

わたしが話しかけた時、川上さんは確かに反応があったのよね。

なんでこんなこと言うのかっていうとね、特別室の山下さんが看護師長さん

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ザ・メッセージ 4

喪失②2日後、山下さんはおやすみで声をおかけしたんだけど起きられなかった。お疲れなのか、ちょっと心配。

川上さん。

「失礼します」

「あ、あなたですか」

「はい。お掃除させていただきます」

「お願いします。お若いのに大変ですね。ここの個室全部なんでしょ?」

「はい。でもみなさんキレイにお使いですのでそんなに苦労はないんですよ」

「やっぱりみなさん、人生の終末はキレイに過ごしたいと思う

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