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『似た者同士?』2023.#30 アルビレックス新潟×サガン鳥栖 ワンポイントレビュー

見直しを行う中で両者のビルドアップを対比しながら色々思った事があったので今回はワンポイントレビューという形で進めていきたい。文量も抑えてあるので普段より読みやすい構成になっているかと思う。けど中身にはいつも以上に拘る
それではいってみよう。

スタメン

ビルドアップ対決

・ボール保持型の中でも新潟と鳥栖は似ている特徴を誇るチーム。両者共にGKをFPと換算して『+1』の優位性をそのまま崩しの局面まで持ち越す事を狙っている。なので丁寧に組み立てる事を中心に、時には小島/朴というある種の司令塔を起点としたロングパスで盤面を一新する事もある。そんなビルドアップ対決が終始繰り広げられる90分間となった。

・GKが関与できるゾーン1、ミドルゾーンでの攻防が主となるゾーン2からのビルドアップに対しては今やマンツーマンで保持者の自由を奪う事がトレンドとなっている。静的な配置で相手の守備網に嚙み合わせのズレを起こす、そこからの移動で動的な構造を作り出して相手を乱していく…と複雑怪奇なボール保持の姿勢がもはや当たり前の時代、『だったらあらかじめ人に付けば問題ないじゃん!』と、アスリート能力が一層問われるようになったトレンドと重なってマンツーマンが旺盛を極めているのだ。
※撤退守備ではこれまで通りゾーンディフェンスが主(だと思う)

・人基準の姿勢に対して、保持側は逆にその力を利用して相手を動かす事でボールと共に選手達が前に進めるか。今からお話するのはそんな構図の試合である。

・新潟ビルドアップvs鳥栖プレッシング。トップ下(というかフリーマン気味だった)堀米が一列上がってCFの小野と共に新潟2CBを監視。主に堀米がアンカーを消して中央からの前進ルートを阻害。小島で+1を作ってくるならCBを消しながら寄せる。両WGは内側のパスコースを消すように待機。

・鳥栖側にとってここで肝となるのが2CHのタスク。『新潟2CHの秋山/高をどう見るか?』に対して、2topが消しきれない片方のCHを自軍CH(主に手塚)が捕まえに行くという形をとった鳥栖。しかしそうなると河原の脇のスペースが空く事になってしまい、序盤はここを自由に使われる結果となってしまった。

・そのスペースを発見して突いたのは主に鈴木。ファールGetで陣形回復に寄与したり、高木や高とレイオフの落とす側-受ける側の関係性を作って前向きの選手を創出したり。鳥栖がハイプレスでコンパクトな陣形を保つ分DFラインの背後が空いてくるのでWGを鳥栖SBの背後に走らせるなどして、そこから一気に加速。盤面をひっくり返してチャンスに繋げていく。

・しかし鳥栖だってそこは織り込み済み。数分も経たずにCBである山崎浩介が迎撃に出る事で構造上生まれてしまうウィークネスを無効化。更にWGが新潟SBへの監視を解いて中切りを極める事で、手塚が中央を消すように鎮座できる仕組みに。

・人に見られて自由を奪われてもファールを受けたり背負ってからのレイオフを成功させたりと、個人の頑張りで何とか陣形を押し進める新潟。しかし、こうした対策を前にすると途端に解決策を失う傾向にあるのは否めない事実であり、戦術で選手達の才能を解放するような取り組みもそろそろ欲しいところである。

・例えば鳥栖は一見すると新潟と似た形だが、細かい箇所に着目すると参考にすべき点が幾つかある。

・新潟はパス中心に前進するのに対して鳥栖は後方のドライブ(運ぶ動き)を交えながらそれを披露するのが象徴的なコントラストであった。朴,CB,アンカー位置で稼働する河原の4人で新潟2topに対して大いなる優位性を確保。パス交換から最終的にドライブ役を作り出す事で新潟1stラインを突破、そこから前方の選択肢を伺っていく。

・運ぶ事の利点は色々あるが、マンツー色が強い展開だと『味方に付くマークマンの意識をこちらに引き寄せる事で味方を楽にする』が一番分かりやすい。決して近からずも自軍のゴールにボールを携えて向かってくる相手を放棄するのは決して許容できるものではなく、非保持側の警戒は確実に保持者に向かう事になる。

・そうなると味方のマークマンがホルダーに寄せに行ったり、或いは敵に付かれていても、その敵は運んでくる相手と同一視野に見る必要があるから味方への圧は少なからず弱まる。そうなると比較的楽に前進できるのだ。

・そして運ぶ事で新潟1stラインを超えた先でも幾つもの選択肢を用意しているのが非常に厄介であった。ライン際で待機するSB、降りてくるCF、降りる動きに釣られた新潟CBの背後へ斜めに走るWG。これらを見て新潟がボールサイドに圧をかけたら逆サイドへの展開で盤面を一気に有利に動かす。まさに後出しジャンケンのように相手の出方を見ながら効果的なカードを叩き出す事で新潟は終始惑わされ続けてしまった。

・別に鳥栖を完コピしろとは言わないが、先程も述べたように鳥栖は十分モデルケースになる保持体形を誇っている。方法論も然り、何より新潟と似た選手構成,クラブアイデンティティがあるので自然とそのような結論に至るのだ。

"究極"を突き詰める

・最後に新潟のビルドアップで突き詰めて欲しい点について。拙いながらも『レビュー』と名乗っている以上、ここを不明瞭のまま放置するのはフェアではない。

ビルドアップの開始/CHのタスク整理/サイドの有効活用。突き詰めるべき3つの要素を挙げたが、これらは全て繋がっているのでまとめて話を進めていく。

・①ビルドアップの開始から。相手の形次第ではあるが、相手は基本2topで嵌めてくるのでここは固定的であるべきだと思う。アンカー位置でプレーする選手もアルベルトによる指導の下で『動きすぎず自らの存在で味方を楽にする』正しい振る舞いを身に付けた高が望ましい。2topのに立つ事でに新潟CBへのプレスを牽制、デコイとして稼働して欲しいところだ。

・アンカー位置が定まると②CHのタスク整理も自然と定まってくる。片方のCHが2top脇~ハーフスペースに駐在すればサイドと繋がって受け手になったり、縦パスを受けて前向きの選手(主にアンカー)へ落とすレイオフの役割を担える。今節では星が入るとその辺が明確になっていた。

・全体としての姿勢も大事。来ないなら来るまで待つ。そのためにGKまで下げてプレスを誘う事で数的優位の下フリーとなったCBを使って前方の選択肢を開拓できるし、相手を誘う事でプレス隊とDFラインの間に間延びが生じるのでそのスペースをアタックする事ができる。

・中央を消されると途端に鈴木や高木がメインキャストを務める2topのポストワークに保持の出来が委ねられる新潟。だからこそ③サイドの有効活用はアップデートを図るための必須要件だろう。

・鳥栖はSB-WGの関係性が良く、縦の関係でレイオフを使い前進するシーンも見受けられた。そういった関係性を構築するにはまず、ビルドアップ時はライン際で待機するSBに良い形でボールが渡る必要がある。良い形とは『対面の相手WGによるプレッシャーから解放された』状態。

・なので①ビルドアップの開始が大事になる。相手を引き寄せるようにパス交換を繰り返す事で次第に相手WGも引き寄せる対象になる。そうなると小島からのロブパスでフリーのSBに渡せるし、CBが縦に運んで外切りのプレスを剥がす事もそれを可能にさせる。53分辺り,ファンソッコによる持ち運びを見てもらえると分かりやすいだろう。

・CBとSBが繋がった状態を作るにはペナ角付近に立つCB-ライン際に立つSBという斜めの関係性を維持したい。そうなると各々のポジショニングにより拘りがなされるし、CHの片割れがハーフスペース付近でSBからの受け手になれるので、サイドを経由した中央への侵入が可能になる。そう、どれか1つでもテコ入れするだけで全てが繋がっていくのだ

・後半は体力ゲージの低下と共に鳥栖のプレスの開始地点が低くなり、第三者からしたら見応えの無い試合の展開と比例して安定したビルドアップを繰り出せていた。問題は鳥栖がハイプレスを選択する際に相手の穴を突いて加速できるかどうか。この辺は次節の京都戦で改めて進捗度を確認できるだろうか。

というように、ここまで述べてきた事はあくまで理想論だが新潟のビルドアップには細かい伸びしろが詰まっている。ボール保持を生命線とするチームスタイルを誇るならそういった点を解消して確かな理由を携えて前進できる状態にまで持っていくのが望ましいだろう。

鈴木のfalse9も流石に読まれ始めた。それに90分の出場を1年中期待できるコンディションの選手ではない(今季は凄く稼働してくれているが)。彼に頼らずとも円滑なビルドアップを可能にできるかどうか、新潟の未来は実は武器であるはずのボール保持に委ねられている。以上、そんなお話でした。ではでは


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