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『保持はおしゃれじゃない』2023.#28 アルビレックス新潟×横浜FC

スタメン

初期配置:4-2-3-1
鈴木
三戸 高木 松田
島田 秋山
堀米 渡邊 舞行龍 藤原
小島

初期配置:3-4-2-1
伊藤
山下 カプリーニ
林 井上 ユーリ 山根
吉野 ンドカ 岩武
永井

前半

早速の先制、5バック崩し

・出会って4分で先制弾。U-22代表帰りの三戸による今季4点目。スコアラーの反転ショットに目が行きがちだが、実はこのゴールの過程にこそ横浜FC攻略法が詰まっていた。
・横浜の非保持はハイプレス,ミドルプレス,ブロックを問わず『5-4-1』気味の陣形。今季は保持で支配する事を見据えてか4バック中心の運用を図っていたが、攻撃機会を構築できず失点は増すばかりという負の連鎖が生じた事でJ2を制した3/5バック型に移行。

・そんな5-4-1の下ではCFがボールの方向を限定して、STが中を切りながら外へ誘導、WBがボールの行方に向かい刈り取りを行う。明確な狙いを持ってホームチームのボール循環を阻害にかかる。

・新潟としては相手の5-4-1ブロックの4+1からなる五角形(1枚目の図で水色で囲んだ所)に侵入していきたい。中央で前向きの選手を作る事で中距離砲を繰り出したり(左右への揺さぶりや背後へのランを引き出す)、相手バックラインを釣りだしてスペースを見出したり。更にはバックラインの手前でフリーマンを生み出す事で自由を謳歌したり。とにかく何でもできるのだ。
・昨年のH仙台戦も然り、5-4-1(5-2-3)で構える相手への攻略法として⇧の狙いは定石となっている節がある。
・得点シーンはまさにその形。前進から加速する事で一気にゴール前へ迫ってクオリティを投げつける。まさに理想通り

バックラインをピン留めする事でプレス隊との空洞化も生み出した。

・1-0。早い段階での先制弾は保持を基軸とするチームにとってかなり大きい。無理をせずに相手が崩れたら畳みかける、自分達の意思を押し付けながら時間もボールも進められるからだ。
・しかし前半を穏やかに過ごす事は叶わず。横浜のプレスの狙い通りにボールを進めてしまい失うきっかけを作ったり、何より非保持で後手に回る事が多かった。

横浜の保持、新潟の苦労


・ボールの所有者になれば5-4-1から3-4-2-1気味に変形する横浜。前進する術は下からの繋ぎよりも、新潟SBが空けたスペースに自軍ST,WBを走らせる爆速サイドアタックがメイン。押し込めば幅を目一杯使う事で新潟が組む4-4-2ブロックの届かないエリアからのクロス爆撃を用意。
・新潟左サイドでは潔く三戸が大外を埋める+高木が中盤に降りたブロック形成を披露して対応を図ったが、右では終始迷いが生じていた印象。
・一長一短がはっきりする松田だがこの試合では後者の側面が表立ってしまった。幅をとる=自身の外側に位置する林へのケアがはっきりせず、横浜WBに渡ると狙いが曖昧なまま向かうので松田の隣に位置する秋山のスライドも遅れてしまう。
・ボールと人の位置を基準にアタックとカバーを繰り返す、ゾーンディフェンスを構築する新潟。FP10人が連鎖して相手のパスコースを消しにかかる守り方なので、1人が対応を謝るとその周辺から決壊の波が押し寄せる。横浜のクオリティだから助かったが、位置的優位を活かしながら崩しにかかるチーム相手だったらと思うと…。次節の等々力で痛い目に遭う前に聖籠で共通意識を共有しておいて欲しいところ。
・しかし、J1となると目に見えるようなエラーは形となって返ってくる。同点弾は右のエリアから。大外レーンに駐在していた林へのアプローチが遅れて容易にクロスを上げられてしまい、ゾーンの隙間に顔を出したユーリにフリックのような形で合わされて失点。1-1。

・マークのズレなどその一瞬の形自体にフォーカスするよりも、前々から再現性高く起こっていた事象への対応策を示せなかった事に目を向けるべきである。後半から修正が入ったが、DAZN越しでも顕著に可視化されるくらいなのでリアルタイムで対応して欲しかった。
・正直前半はあまり書くことが無かった。試合終了後に改めて観返したが、リアタイ時にポストした内容と同様の感想を抱くに留まった。


後半

持たざる時間も俺たちのターンに

・目に見える修正が入って結果良くなったといえば非保持局面を挙げたい。下からの繋ぎでは苦労している横浜に対し、新潟は(当社比)積極的なプレッシングを敢行。3-4-2-1の『3』にCF,OMF+WGの3枚で数合わせ。新潟プレス隊は中央を消すようにバックスへ向かうので横浜のボール循環は外へ外へ追いやられる。そこでSBをスライドさせて完全に奪う/蹴らせる、一気に回収する術を見せるようになった。

・万一中央のCHを経由されても新潟のCHもマンツ―気味に見ているから一応は問題ないという仕組み。そこで剥がされて前向きの状態を許したり、後方から裏返すようなボールが放り込まれてオープンスペースに舞行龍が走らされたりとリスクはある。それを許容しての方法論である事を忘れてはいけない。
・本日は保持の柔軟性に欠ける相手だから大きな問題にはならなかったけど。
・ブロック守備では左右共にボールサイドのWGが最終ラインに加わり5枚気味に構える事でこちらも嚙み合わせをはっきりと。時に中盤のラインを3枚で構成する事になるのでバイタル付近にスペースが生まれてしまう、そこは最終ラインからの迎撃で何とかする。迎撃した選手が埋めていたスペースは隣の選手が横スライドでカバー。
・守る事に比重が傾倒すると非保持→保持の中間である切り替え局面で不利を被るケースが多い。それでも高木,鈴木が相手を背負いつつレイオフの起点となったりファールを貰う事で落ち着いたボール保持の時間を作る事が出来た。アルベルト期からの前線のチェーンを担うアベックはJ1でも形旗頭となり続ける。その貢献度たるや…。

保持はおしゃれじゃない


・さてボール保持の話。正直後半はこの局面が芳しくなかったように思う。
・時間の経過と共にミドルプレスを中心に新潟へ規制をかけるようになった横浜。彼らの5-4-1の維持が可能だった時間帯は上手く抑え込まれていたが、気になったのは前述したような五角形の内側を経由できていなかった事。
・2CHが両方最終ラインまで降りて組み立てに参加したり。
ボールロスト時の被カウンターを警戒してなのか、堀米が最終ラインに残り気味でボール回しに参加したり。対面のカプリーニを引き付けて中盤のブロックを広げる意図もあったと思うが、かえって自身を苦しめる状況が続いてしまった。

・高木と三戸が場所を入れ替えて、高木がWBの意識を釣ってWB-RCB間に走る三戸という相互作用は見事。ただ、ホルダーである堀米が余裕を失った状態なので満足いくボールは届かず。
・あくまで配置論ではあるが⇩のように相手をみながら二択を突き付ける試みがあると、より効果的に最終局面まで進む事が出来たかもしれない。

ルーズだったカプリーニ周辺を狙い撃ちにする構造があれば。

・全体でのパスワークだったり複数人でのコンビネーションだったり、いわゆる『パスサッカー』的な要素が日に日に強まっていく新潟。ただ、ボール保持は芸術点を競い合うものではなく、決しておしゃれが大事な訳ではない
・どうポジションをとってどのような動かし方を選択すれば相手を動かせるのか、自分達に有利なスペースを見つけられるのか。アルベルト期から実直に取り組み続けたテーマに今一度向き合う必要があるのかもしれない。

崩壊の予兆を逃さない新潟

・中盤以降のブロックが崩れると一気に殴り込まれるのは5バックあるある。本日の横浜も然り、5-4-1の『4』の形成が徐々に難化するとCHの脇・ハーフスペース周辺に空白が生まれるので、新潟はSBやWGがそのスペースを突いて寄せてきた相手を引き付けていくという仕組みに。
・勝ち越し点の前、秋山のシュートに至る流れもそんな所から。簡単にゾーン2,3まで侵入できるのであとはクオリティを突き付けられるかどうか。

・結果的に勝ち越しに成功。高木のCKから渡邊泰基。成長著しい県内出身選手は見事J1初ゴールをたたき込んだ。

・後半21分に松田→太田、鈴木→長倉
・同29分に秋山→高、高木→長谷川

29分の時点で以下の布陣に
長倉
太田 三戸 長谷川
島田 高
堀米 渡邊 舞行龍 藤原
小島

クローズ

・新潟がリードして横浜が前がかりになった事で形成が変化。守勢に回る時間帯が増えたがホームチームは冷静に対処。逆にとどめを刺す試合巧者ぶりを見せつけた。
・押し込まれると太田/長谷川がWB化して相手の位置的優位を無効化。ミドルプレスでは無闇に引かずボールサイドに圧縮しながら4-4-2を維持してスペースを排除。
・中央でごちゃごちゃするか、(サウロミネイロとかいたらまた違ったと思うが)単発クロスで終わるか。横浜の崩しに脅威が無かったのも大きいが、粗を見せず狙いがはっきりとした守備網を敷いた事で小島へのルートをシャットダウン。
・全員に言及するとキリが無いくらい、交代選手が軒並み良かった。自身の役割を認識した上で11人の枠組みから外れないパフォーマンスを披露。
・アンカー位置に鎮座する者、2列目に加わって崩しに加担する者と、島田-高コンビがリスク管理と攻撃参加の機会を分け合う事でネガトラの危険性を防止。保持でもリスクを排除する事で淡々と時間を進めていく。
・横浜は交代カードを切る事でみるみる元気になっていくが、その積極性が結果的に3点目に繋がってしまった。
・横浜としては点をとるためにまずはボールを奪いに行く仕組みが欲しい。ただ、それは個々の姿勢に委ねられていたのか、CHの三田が無闇にプレスに出ていく事で中央部が空洞化。カバーしようとCBの吉野が迎撃に出るも失敗。結果ライン間がすっぽり空いてしまう格好となり、高のBox to Box性能が発揮される格好となった。3-1。

・自ら相手が崩れて空け渡してくれたスペースを突く力はリーグ随一。それだけでも十分だが、例えば来季は新潟の力をリスペクトして撤退守備メインで向かってくる相手が増える事も想定される。そうなった際はいかに自らスペースを見つけてこじ開けられるか、質と構造で叩き壊せる力が必須要件となる。それが整ってからおしゃれが上澄みされる。お金が無いと欲しい服は買えないもの。
・監督本人の意向次第ではあるがクラブとしては24シーズンも松橋体制の継続が既定路線だろう。上記の指摘以外にもまだまだ残されている伸びしろに対し、ラスト7試合で改善策や新たな試みを示す事ができるのか。残留を殆ど手中に収めた今だからこそ、来季の順位予想で一桁台に違和感なく名を連ねるようなパフォーマンスに期待したい。

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