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木漏れ日の下で

映画「PERFECT DAYS」

よく知られているように、渋谷区の公衆トイレはそれぞれ有名建築家が設計していて、建築雑誌で特集が組まれるほど一風かわったものです。この映画ではトイレ建築そのものや建築家、行政、ユーザーにスポットを当てるのではなく、清掃員を主役にしています。彼の名前は平山といい、朝起きてから夜眠るまで、昔の言葉で言うなら「晴耕雨読」のような毎日を送っています。なんとなく流されてそうなっているわけではなく、そこには本人の固い意志があるのです。
主人公に襲ってくる障害は、独自に築いたルーティンによるパーフェクトな日々を壊そうとするなにかです。例えば、愛聴しているカセットテープを売り払おうとされたり、同僚が突然退職してそのぶん残業しなくてはならなかったり。ふだんは無口な平山さんが、携帯電話で会社に「誰でもいいから代わりをよこせ」とクレームを入れるのは面白かったです。(まさか携帯電話を持っているとは!)

珍しい木造モルタルのメゾネットタイプ。
彼にとって居心地のいい部屋で、夜は決まって読書。

平山さんの日課の中に、神社の木漏れ日の下でコンビニのサンドイッチを食べたり、木漏れ日を写真に撮ることがあって、映像でもその目に映るのと同じように上を向いたり、トイレの壁に映りこんだりするのが印象的でした。

ヴィム・ベンダース監督の映画は久しぶりに観ました。若い頃に「都会のアリス」や「アメリカの友人」「パリ、テキサス」なんかを見漁りましたが、近作はだんだん哲学的で難解になっていった気がしていて遠のいていました。
この作品は舞台が東京だし、言語は日本語だし、出演はスクリーンやテレビでよく見る役者さんたち。いつも見慣れた東京の街並みがヴィム・ベンダースの映像美によって、地上げ後の空き地に張られたブルーシートも、取り壊されそうな下町の地下街も、渋滞にうんざりな首都高でさえ、実際に足を運んで体験みたくなる空間として刻まれました。
シーンを巡り、東京を旅する旅行者が増えそうです。Come to Tokyo.

見出し画像は渋谷区のトイレのひとつです。平山の同僚タカシのセリフに登場します。

PERFECT DAYS
2023年製作/124分/日本
ヴィム・ベンダース監督
https://www.perfectdays-movie.jp/


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