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映画感想文「枯れ葉」アキ・カウリスマキ 今こそこの映画を

映画館でアキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」を鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。

※ネタバレありです。
カウリスマキ監督の新作を心待ちにしてきて、なおかつこれから観に行くよって方は、ささっと退避してくださいませ。

新作『枯れ葉』の主人公は、孤独さを抱えながら生きる女と男。ヘルシンキの街で、アンサは理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることができるのか? いくつもの回り道を経て、物語はカウリスマキ流の最高のハッピーエンドにたどりつく。

公式サイトより

というわけで、引退宣言したカウリスマキ監督の新作を観てきました。
そもそも、なぜか今年(2023年)は自分にとってカウリスマキイヤー。
今作を含めカウリスマキ作品を6本観ました。
何でだろう?これといった理由は見当たらないのですが、今年観た監督の中では一番多かったですね。ほんとに何でだろう?

ついでだから観た作品を列挙すると、
「街のあかり」「マッチ工場の少女」「コントラクト・キラー」「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」「浮き雲」。
そして今回の「枯れ葉」。

まあ今年数本観てきた身からすると、この新作「枯れ葉」はカウリスマキ監督の文体を味わう映画かなと。
お話はもうシンプル。
例によって、仕事に恵まれずお金にも恵まれない男女がぶすっとしながら登場します。その2人のラブストーリー。
しかも昔の映画のように、男女が出会った時点で視線がカチリと絡み、もう2人が恋に落ちるというのが観ている人全員に分かる。
あとは、その2人がどうやって結ばれるかを見守るのみ。
最近、こういう映画ってなかなかないですよね。。。
ヒロイン・ヒーローがはっきりしてる。余計なごたくはないのです。
今年観た作品の中でもお話の展開のなさでは上位に入ると思います。

だからもうカウリスマキ文体をとことん味わうに尽きる。
こういう書き方は良いのか悪いのか分からないのだけど、今回は出演者の方に華がありましたね。(いつもはもっと華がなくてぶすっとしてる。)
だからお話がシンプルでも気にならなかったのかもしれません。
でも自分の好みで言えば、もっと華のない役者さんの方がカウリスマキ作品には合ってる気がします。
どうしようもない感じを出せる人の方が世界観に合う。
カウリスマキ作品にしてはちょいと小奇麗な印象を受けました。

でもね、タイトルに「今こそこの映画を」と書いたけど、劇中のラジオではウクライナの戦争のニュースが流れる。
それを聴いたヒロインは「なんてひどい戦争!」とはっきり言う。
ああ、なんてまっとうな描写なんだろう。
当たり前のことを当たり前に言うって、なんて素敵なことなんだろう。
今年いろいろ映画観たけど、ここまではっきり言う作品はなかった。
他の監督も見習って欲しいっす。

この映画では恋人になろうとしている2人が、(女が)携帯の番号を書いた紙を渡し、(男は)それをなくしたため映画館の前で何日も待ち、それでなんとか出会い食事の約束を取り付け、(男は)花を買い、(女は)食器を買い、(男は)ジャケットを着て、2人は女の家で食事をする。
そこで女は男が酒の飲み過ぎだからやめるように言うのだけど、男は「指図されるのは嫌いだ」と言い、家を後にする。
でも2人はお互いを忘れられず、男は女のために酒を断つ。女は男からの連絡を待つ。
そしてーーーー。

とまあ何のひねりもないお話なのだけど、そこには「愛があれば人は変われる」、そして「愛があれば他のことはどうだっていい」っていう楽観的でストロングなメッセージがある。

今って、スマホで調べれば答えにまっすぐにたどり着ける時代ですよね。
それに比べると2人のやってることってほんとにアナログ。ほんとに遠回り。
でもさ、カウリスマキ作品を観ると、この遠回りこそに大事なことが詰まってる気がするんですよね。

うまくいかない、ため息がでる、笑わない。
今の時代ってこういうことをなるたけ回避するようにできてるけど、アキ作品を観るとそういうものの底に喜び・楽しみがあるって感じがするんですよね。
生きるいじらしさというか、サラッとした光というか。

そりゃあお金とか名誉とかかっこいい肩書とかギラギラ光るものをまとっている人もいるけど、それはしょせん外側から与えられるものであって、人が内側から光らせられるものって、そんなにギラギラしてるものではないんじゃないか。
でもサラッとした光でもそこに愛があれば十分じゃないか。
アキ作品を観るといつもそんなことを思うのです。だから気持ちが安定するのかな。

ということは、今年アキ作品をたくさん観たってことは、無意識的に自分は気持ちが不安定だったのかもしれません。書いてみるとそうかも。。。

最後に今作品は音楽が多め、どれも良かったです。あと犬も可愛かった。
ラストシーンはチャップリンの「モダン・タイムス」の美しいオマージュ。
自分たちの生活の中で、(古いものを刷新して)新しいものを生み出すのも大事だけど、過去の美しいオマージュという気持ちがもっとあってもいいのかもしれません。

総合評価 ☆☆☆+☆半分(☆5つが最高)


◇次回は今年下半期の映画を振り返ろうと思います。
それが今年最後の記事かなあ。

映画の帰りに見かけた
東京・丸の内のイルミネーション。

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