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凡人の殺し屋「ザ・キラー」

公  開:2023年
監  督:デヴィット・フィンチャー
上映時間:119分
ジャンル:サスペンス/ドラマ/コメディ

何でもかんでも用済みだメェ~

殺しを稼業にする主人公が活躍する映画、といえば、スタイリッシュなものを想像することでしょう。

近年の作品で殺し屋関係の作品といえば、キアヌ・リーヴスが主演の「ジョン・ウィック」シリーズを思い出す人もいるかもしれません。

圧倒的な実力と、緻密な計算に基づいた戦闘シーン。

しかし、「セブン」や「ファイトクラブ」でコアなファンを持つデヴィット・フィンチャー監督の最新作である「ザ・キラー」は、殺し屋という商売を、天才的なキャラクターではなく、どちらかというと凡人が行った場合の作品として描いています。

格好いいキャラクターが、デヴィット・フィンチャーらしい演出で、華麗に活躍する物語を期待してみると、相当な肩透かしを食らいますので、ネタバレしすぎない程度に、本作の見どころについて語ってみたいと思います。


独白の多い殺人者

マイケル・ファスベンダー演じる主人公は、誰もいないマンションの一室で、遠くのホテルを見ています。

誰にも気づかれないように証拠を消しながら、最小限の運動をこなしつつ、ターゲットを待つ。

頭の中では、自分にとっての、仕事の哲学を思考する。

いつになったら仕事を始めるのだろうと思うのですが、なかなか始まりません

映画が始まって20分を過ぎるころから、ようやく、緊張感が高まってくるのですが、ゆっくりとした走り出しにヤキモキする人もいるでしょう。

「汝の意思するところを行え。誰の言葉だったかな」

なんて肝心なところは、曖昧だったりするのですが、カッコいい殺し屋の哲学というよりは、主人公が自分に言い聞かせているものだと、なんとなくわかってきます。

殺しのプロだが、天才ではない。

物語の構造だけでいいますと、殺し屋というある種特別な人間だと思っていた人間が、数ある一人、つまり、凡人であることに満足する物語となっているところがポイントとなっています。

何せ、マイケル・ファスベンダー演じる主人公は、鍛えているし、慎重な人物ではありますが、完璧ではないのです。

映画「ジョン・ウィック」の主人公のようにスタイリッシュではなく、むしろ、かなり泥臭い戦いを強いられたりします。

敵は想像以上にタフで強いですし、眠らせたと思っていた番犬は起きてしまいますし、鍵を開けるための道具をAMAZONで買ったりもします。

どこか、垢ぬけない殺し屋の、別の意味で漂う緊張感を楽しむのが、実は「ザ・キラー」の魅力となっています。

同じデヴィット・フィンチャー監督作品で言いますと、「ゴーン・ガール」なんかは、妻の失踪事件として大変な緊張感をもって作られていますが、ベン・アフレックが演じる主人公のなんともいえない間抜けな笑顔から、笑えないコメディの様になっていく雰囲気に似ているといったら、わかっていただけるかもしれません。

漂う緊張感

凡人が、殺し屋という稀有な商売を続けるのに、色々と考えながら行っている物語だ、と思うと、スタイリッシュではないことにも説明がつきます。

そして、物語的なカタルシスが少ないという欠点も本作においてはあるのですが、デヴィット・フィンチャーという監督の実力によって、常に物語は、緊張感が漂っています。

暗殺に失敗した後、痕跡を消すために身体を洗ったりしたにも関わらず、警察犬に気づかれるかもしれないという恐怖から、もう一回手を洗いに行ってしまったり、予測とは違う行動が発生したりするので、たいしたことは起きないのですが、いつまでも緊張感をもって作品を見続けることになります。

捨てる殺し屋

映画「ザ・キラー」が面白いのは、証拠隠滅のために次々と荷物を捨てていくところです。

殺人の証拠にしても、どうやって隠滅するのかがポイントだったりしますが、主人公は、テンポよく捨てていきます。

ゴミ収集車に投げ入れたり、そこらへんにあるゴミ箱に捨てたりしますし、ケータイ電話に至っては、一回使ったら踏みつぶし、壊した後は、道端に平気で捨てています。

お金は勿論あるようですが、達人的な能力があるわけでも、特殊メイクをするわけでもなく、特別な道具を使うわけでもなく、色々なものを使って、殺し屋をやっているところが面白い点です。

哲学とは異なる

話しは変わりますが「ゾンビランド」という作品では、ゾンビがはびこる世界で生きる為のルールを定めており、それを守ることで主人公は、なんとか生き延びていたりします。

独白をしながら、ルールのようなものを語る場合は、それを遵守していくからこそ、成功が積み重なるというのが王道なところですが、「ザ・キラー」は、主人公が自分で思い描いているルールというか、哲学が、実はあまり守られていないところもポイントです。

「感情移入は弱さを生む」

と、何度も作中で言い聞かせているのに、主人公の表情は、かなり動揺しています。

事あるごとに動揺していて、心拍数は高めですし、情に厚い人だったりもします。

空港では、オーバーブッキングした人の為に、席を変わってあげたりもしています。

本来であれば、一刻も早く隠れ家に帰りたいはずなのに、ホテルに敵が侵入してくるかも、と思いながらそんなことをやるんだから、殺し屋のプロにしては、ずいぶん優しい男なのです。

そんな男が、最後にたどり着いたのは、実は平凡なラストというところが、賛否両論を生むところでもありますので、デヴィット・フィンチャー監督が好きな人は是非ご覧になっていただきたいと思いますし、どこが面白いんだ、と疑問に思っている方は、いわゆるスタイリッシュでカッコいい殺し屋の話ではない、という前提で、もう一度ご覧いただきたいと思います。

以上、凡人の殺し屋「ザ・キラー」でした!


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