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文化は庶民へ流れゆく。映画「デリシュ!」

公  開:2021年
監  督:エリック・ベナール
上映時間:112分
ジャンル:ドラマ/料理

映画も料理も素材が大事だめェ~

地球の歴史において、文化というのは、貴族から平民へと伝わっていくことが多かったりします。

特に、宮廷文化と呼ばれるものにおいて顕著でしょう。
音楽なんかは特に代表的に思われます。

王侯貴族が個人的な楽団を屋敷に常駐させ、自分の好きなときに好きな音楽を聴くことができる。それこそが貴族の特権でありたしなみだったわけです。

モーツァルトとサリエリについて描かれた映画「アマデウス」の時代なんかは、まさにその全盛だったともいえるでしょう。

やがて、貴族が力を失い、宮廷音楽は庶民に開かれていきました。

貴族が独占していた音楽が庶民でも聞けるようになり、現代の我々では、スマートフォン等の手のひらサイズのものが音楽を奏でるようになったわけですので、音楽の面でいえば、かつての貴族よりよほどに我々は、贅沢だったりします。

さて、前置きが長くなりましたが、映画「デリシュ!」は、フランス革命直前の時代に、貴族のもとで料理人として活躍していた男が主役の作品となっています。

飯で表現するなかれ

主人公であるマンスロンは、たんなるパン屋だったにも関わらず、貴族に拾われて、宮廷料理人として取り仕切る立場になっています。

当時の貴族たちは、自分達の威光を保つために、様々な食材をつかった美味しい料理をつくらせ、お客にふるまっていました。
自分の力を見せつけたり、相手をもてなすのに、料理はうってつけだったのでしょう。

ただ、偏見などもひどく、地面にうまっているジャガイモは、高貴な人間が食べるべきではない、といった考えなどもあり、作中においても、食べ物に対して開放的な人もいれば、保守的な人間もでてきます。

そんな中、マンスロンは、ジャガイモでつくったオリジナルの料理を提供してみたり、香辛料をつかいすぎず、素材の味を生かした料理をつくるようにと指示をするような、現代の我々と近い感覚の持ち主として描かれています。

もちろん、18世紀のフランスでそれが通じるわけもなく、認めてくれる人がいる一方で、我を通そうとするあまり、マンスロンは料理人の職をクビになってしまいます。

追放料理人の弟子

息子と共に屋敷を追い出された主人公は、旅人を宿泊させたり、簡単な食事をだす旅籠屋(はたごや)を開きます。

とはいえ、恩義ある貴族に追い出されてしまった彼はすっかり料理への情熱を失ってしまいます。

「デリシュ!」は、一見、よくありがちなストーリーで進行していきます。

情熱を失ったものの、凄腕の料理人である彼のもとに、謎の弟子志望の女性がやってきます。

ルイーズと名乗る女性は、ジャムをつくっていたと言いますが、あきらかに料理をしたことのあるような感じではありません

そんな師匠と弟子のやり取りみたいな感じになりつつ、主人公ほどの料理人がいない、ということで、再びかつての貴族がご飯を食べにきたい、という流れになっていきます。

レストランの原型

作中においては、レストランが存在していなかった世界で、レストランをつくりだした、という雰囲気で描かれますが、レストランの起源については諸説ありますので、難しいところです。

本作においてポイントなのは、貴族のもとで料理人をしていた主人公が、貴族のためだけではなく、庶民にも、自分の味を食べてもらえるようにした、という点です。

フランス革命前の世界であり、庶民の不満は日に日に膨らんできていた時代です。

庶民は飢えているにも関わらず、貴族は贅沢三昧

貴族への恩義で料理をつくっていた主人公は、ようやく、貴族の精神的な支配から逃れて、本当の意味で、自分の料理を食べたい人に提供できるようになった、というのが大まかな流れとなっています。

これが実話だ、というのはちょっと誤解をまねく作品とは思いますが、宮廷の文化がやがて庶民へと広がり、革命を起こすことにも貢献していっている、という点が食という点から描かれている、風変わりな作品となっています。

本作品をみた後は、自分でマヨネーズがつくりたくなると思いますが、くれぐれも、夜にみないでもらいたい作品ともなっています。

夜食をついつい食べたくなります。


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