「パイナップル先生のありがたくないお言葉」をなぜ書いたか

さて、昨日まで、4回にわたって拙作「パイナップル先生のありがたくないお言葉」を連載させていただきました。
400字詰め原稿用紙では67枚に相当する長さです。
これは、通っている小説教室に提出したものです。そこではいろいろと指摘を受けました。どんなことを言われたか、そして作者なりのやりたかったことや反省点はどんなものか、明日からここに書いていこうと思います。
今作にはいろいろとありまして、得られた反省点などをここで述べていこうと思っていました。当初は、全文を載せるつもりはなく、必要に応じてざっとあらすじを紹介しつつ、「こんな指摘を受けた」「ここが失敗だった」などと言っていこうと思っていたのです。でもそれではわかりにくいので、こうして、全文を載せた後にいろいろと述べていくことにしました。

今日は、まず作者がどんな思いで書いていたのかを少し紹介しましょう。
まずベースにあるのは、作者が世の中に対して思っていることを登場人物に発言させたいということでした。
例えば、世の中の人はよく「マニュアルどおり」というのを否定的にとらえるじゃないですか。しかし、マニュアルどおりにやるのは当然のことなんじゃないのかな、とわたしは思うわけです。
ただのわたしの想像でしかありませんが、世の中の人たちは「マニュアルどおり」という言葉の意味をそれほど考えていないのではないか。よく考えもせずに、否定的なものと決めつけていないだろうか。だって多くの人がマニュアルどおりを嫌うんだから、悪いものに決まってる。そう思い込んでしまっていないだろうか。
そして、なんか腹立つ店員とかをけなすのにちょうどいい言葉として、「おまえはマニュアルどおりにしかできんのか」などというふうに口にしているのではないか。
……こんなことを日々考えているわけですよ。
要するに、「おれって、みんなと違う考えを持っているんだぜ」というのを言いたいだけなのかもしれませんけど。

また、こういう思いもあります。
数々の創作物を鑑賞してきて、わたしには不満な点がいくつかあるのです。
みなさんもありませんか? 「なんで主人公は美男美女ばかりなんだ」とか、「なんでドラマではこうも簡単に運命の人に出会えるんだ」とか。そういうの。
わたしが不満に思っていることの一つに、創作物では、問題のあった家族がだいたいまとまって終わるというのがあります。
ドラマでもアニメでもそうです。時代劇なんか特に多いかな。ばらばらになりかけていた家族が、何かの事件なりできごとなりをきっかけとして、わだかまりを乗り越えてハッピーエンド。物語の基本ですね。
ただ、実際の世の中でもそうですけど、創作物の中でも、ろくでもねえクソ親父みたいなのがいるわけですよ。さんざん家族を泣かせて、よその女とどこかへ消えて、それがしばらくしたらひょっこり帰ってくる。息子や娘は「あんなの父親じゃない。あいつのせいで母さんは苦労して死んだんだ。それを今さら!」と怒る。面会も拒否。すると友人なり先輩格の人物なりが叱りつけるわけですな。「今お父さんに会わなきゃ、一生後悔するぞ!」てなもんで。そしてこの親子は涙の再会を果たし、和解しました。めでたしめでたし。……よくある話ですよね。いろんなジャンルの作品に、応用されてきていると思います。
わたしはこういうの、嫌いなんですよ。「家族だから」という魔法の言葉で、何でもかんでも許さなきゃならないのかなって疑問に思います。許せないものは許さない。自分の人生にもう関わってほしくないものは、シャットアウトする。それでもいいんじゃないかと思うのです。
過去を乗り越えるというのは、そんな簡単なことじゃないんじゃないか。家族だからできるんじゃない。むしろ、家族だからこそ難しいということもありえるんじゃないですか。
こういうドラマを見るたび、わたしは「和解するな、許すな」と念じながら展開を追っています。ひねくれてる、などと言われることもありますが。
そんなわけで、家族が和解しない物語を書きたかったというのもあるのです。

それらの、一般に受け入れられにくいかもしれない意見を言わせるキャラクターとして、宝田を設定しました。また、宝田の言葉を際立たせるため、青くさい意見を言うキャラクターとして琴葉を設定しました。一般人の感情移入を促進するため、また、作者が冷静になるため、琴葉のほうを語り手にしました。
宝田の意見こそが作者の意見だろう、というのは、読んでいただければ想像できるのではないかと思います。
ただ、「おれって、みんなと違う考えを持っているんだぜ」を貫くためには、自分の意見を整理するだけじゃない。みんなの意見というのも調べておかなければなりません。そして両者がどれほど違うのかを知っておくべきです。
自分の意見というのはわかるんですよ。でもみんなの意見というのは、正確に把握するのはとても難しい。今作ではその辺で大きく失敗したのですが、詳しいことは明日以降にお話ししましょう。

ちなみに、「酢豚の中のパイナップルは存在意義がわからない」というのは、人気ドラマ「相棒」で杉下右京が言っていた言葉です。これを聞いて、酢豚が大嫌いだったわたしは、「何を言うのか。酢豚の中でまともに食えるのはパイナップルだけだ。むしろパイナップルこそが酢豚の中で唯一、価値がある」とか思ったのです。それを今作では活用することになりました。
パイナップルは酢豚の肉やら何やらをやわらかくする効果があるらしいですけどね。

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