おばあちゃんの知恵袋 解答編1

光太郎の四畳半のアパートの中で、青一(せいいち)はメモ用紙を前に考え込んでいた。
そこには次のように書かれていたのである。

A5K1N4G1N1A2
S2G5T5M5N1A2
H2M1D1

青一はメモ用紙を裏から透かしてみたり、上下逆にしてみたりと、いろいろとやってみていたが、やがて降参したように、うつむいて首を横に振った。
「光太郎よ。おれ、もう」
「何かね、青一」
青一は、大きなため息をついた。
「もう、飽きた。これ以上考えるふりはできねえ」
そう言ってにやりと笑うのである。
「簡単すぎるだろう、この暗号! これを暗号と呼ぶのならな!」
「ほう。では解いてみてくれるかな。論理的にな」
「おれは、理屈っぽいことは苦手だが」
長身の青一が、狭い部屋に横たわる。
「日本語にはよ、子音と母音というもんがある」
「英語にもフランス語にもあるだろうが」
冷静に指摘する光太郎は、短い脚をコンパクトにしてあぐらをかいている。
「細けえことはいいんだよ。とにかく子音と母音を考えれば、一瞬だ。アルファベットは子音、数字は母音を表してる。子音はKがカ行、Sがサ行、というふうになっているし、母音は1から5まで順にアイウエオだろう。最初がA5となってるのは、子音がないから、とりあえずア行ということで、Aをつけておいたっていうところだな」
光太郎はうなずいた。
青一は続ける。
「だからA5は『お』、K1は『か』、N4は『ね』、というふうになっていって、結局はこうなる」
青一はメモ用紙の下の方に、答えとなる文を書いた。

おかねがない
しごともない
ひまだ

光太郎は軽く拍手した。軽くだ。すぐにやめた。
「よくできました、青一。そうか、簡単すぎたか」
「ああ。これくらいならおれでも解けるぜ。ところで今日は」
一転、青一は自信のない顔つきになった。
「おまえに頼みがあるんだ、光太郎。おれのばあちゃんが少し前に死んだのは知ってるよな? ちょっと困ったことになってさ。協力してくれよ」
そして今解いたばかりの暗号文のメモをひらひらさせた。
「ひま、なんだろ?」
そんなわけで、光太郎は青一に連れられて、彼の家まで行くことになったのである。

(つづく)

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