本の旬について 岩城けい「さようなら、オレンジ」

コミケの原稿が終わった。
これからは好きな本たくさん読めるじゃんひゃっほう。

ってなったのに、夜勤だったり夜勤明けだったり、家族の時間も大事にしたかったりでなかなか読めず…パスカヴィルのわんわんが私を待っているのに。

本には旬がある、と私が塾講師を務めていたときの師匠格から聞いたことがある。

エルマーのぼうけんは小学生のうちに。
あさのあつこは中学生のうちに。
三島由紀夫は高校生のうちに。
村上春樹は大学生のうちに読みなさいとのことだった。

もちろん、私は28歳になった今でもあさのあつこのいろんな作品が好きだし、村上春樹の短編はたぶんおじいちゃんになっても好きなんだろうなと思う。

でも、その師匠さんが言ってることも頷けるのであった。

岩城けいの「さようなら、オレンジ」という小説がある。
これはオーストラリアに移住(移民)したふたりの女性のお話。どちらの女性も子供とともに生きていくことに辛い経験と苦しい今があって、読み進めるうちに胸が痛む場面もぽろぽろと出てくる。

シングルマザーという言葉が他人事ではない人は、きっとこの小説が大切なものになると思う。私は初読が二十二歳のときだった。泣いてしまった。泣くこと=素晴らしい小説ではない。演出泣きという言葉だってあるから。それでも、小説に連ねられた人々の悲しみやことばはどれも切実だった。小川洋子は芥川賞の選評で「少し情緒に流されすぎている」と言ったらしい。つまりは、フィクションの裏にある作者の感情が、表に出すぎているのではないか、ということ。
しかし、その時分の私には、それらが嘘のないものとして、直接飛び込んできたのだった。シングルマザーということばを自分の中でようやくかみ砕いて飲み込めた時期が、ちょうど二十二歳だったと思う。

読むべきときに読んだのかもしれない。そう思わせて貰える本がたくさんあるから、やっぱり本を探すのも、読むのも、誰かと感想を伝え合うのも楽しい。

もしもこの記事を読んだ人にとって「旬な本」があったら、是非とも教えてほしいです。

できれば、どうしてその本が旬だったのかも。

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