夏のクリシェ

雨を吸いこむアスファルト
読みかけの本
海の見える駅
まだ夏はやってこない
灰色の空は低いまま灰色の透明な匂いを漂わせる

雨に濡れた紫陽花
使い古した定期入れ
消してしまった写真とか
まだ夏はやってこない
空からの水音はとめどなくて一瞬が永遠に感じる

雲が途切れて光の階段が降りてくる
灰色の背景にカラフルな橋が架かる
それは夏の始まりの合図

アスファルトに漂う陽炎
飲みかけのサイダー
溶けそうなアイスキャンデー
ありふれた夏がやってくる
いつも通りの予定調和の季節が

突き刺すような日差し
鼻をくすぐる潮の匂い
砂に書いた名前
ありふれた夏がやってくる
いつも通りの一度きりの季節が

さあ用意をしよう
クーラーを効かせた車を走らせよう
ゆっくりでいい
どうせその足音には追い越される

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