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ひねくれた大学生は、いかにして「挫折は力になる」と信じてゼミの指導を行うようになったか (田中悠介さんインタビュー・後編)

 今回、私が母校のゼミで行っている学生向けキャリア支援の活動についてインタビューをして頂きました。
 前編に引き続き、お楽しみください!




 現在、母校・名城大学の佐土井ゼミで学生のキャリア支援を行っている田中悠介さん。
 「田中さん自身の大学生活は?」と尋ねたところ、意外にもコンプレックスに溢れた学生だったとのこと。大学入試で挫折を経験した田中さんは、どう自信を取り戻したのか? そして、「コンプレックスが一番の力になる」と彼が語る理由とは――。

田中悠介さん
1988年生まれ。2011年名城大学卒、2012年清華大学留学。現在は、自動車部品・工作機械メーカーのジェイテクト株式会社でマーケティング業務に携わる。母校の名城大学経済学部の佐土井ゼミにおいて学生のキャリア支援を行うNextonePJを主宰。100名以上の学生を指導してきた。


ひねくれていた大学時代


――:今は大学のゼミでキャリア支援などの活動をされている田中さんですが、ご自身はどんな大学生だったんですか?

田中:あの……ひねくれてました(笑)

――:(笑)
どんな風にひねくれてたんですか?

田中:えーっと、入学式の時に、一人でトイレに立てこもって、ご飯食べてたりとか。

――:それは、なぜ……? いじめられて、というわけではないですよね?

田中:理由としては……、僕、実は、名城大学は滑り止めだったんですよ。本当は国立大学に行きたかったんだけど、落ちてしまって。ある意味、仕方がなく入ったという意識があった。
だから、周りの学生に対して「こいつらと俺は違うんだ」って思いたくて、壁を作ってました。

――:ああ、トイレでご飯を食べたのは、一人になりたかったということなんですね。
その後も、友達をずっと作らなかったんですか?

田中:実はそうでもないんです。今のゼミ運営のメンバーが6人いるんですが、彼らはみな大学の友人です。
ただ、大学の頃は、その6人全員が、すこしひねくれてたんですよね。ほとんどが英語のクラスで出来た友人がなんですけど、そのクラスは入試で英語の成績が一番良かった学生が集められていました。そうすると、より偏差値が高い他の大学に落ちて、滑り止めで名城大学入った奴が多かったんですよ。

――:ああ、それで同じようなコンプレックスがあった。

田中:似た物同士で集まって、傷のなめ合いをしていたような記憶があります。今思うと、変なことばかりやってましたね。
例えば、クリスマスの時は、僕はサンタのコスプレして授業受けたり。

――:それは、笑いを取りに?

田中:授業自体は普通に受けてました。ただ、サンタの服を着てるだけ。

――:シュール……。

田中:「周りの奴らとは違うんだ」、って思いたかったんですよね。何か違うことをやらないと、「俺は低いレベルに落ちてしまうんだ」って。

――:「なにか違うことをしないと駄目なんだ」という焦りがあった?

田中:そうだったんだと思います。
あと、コンプレックスがあると、人を信頼するのが下手になるんですよね。

――:ああ、それは分かる気がします。
自信がないから、うまく人と付き合えない。

田中:それで、一人で変なことに手を出して、失敗してよりコンプレックスを強めてしまったりする。
今って、インターネットで情報はあふれてますけど、嘘の情報も多いじゃないですか。そういうのに引っかかって痛い目に合ったりする。悪循環です。

――:更に自信がなくなりそうです。

田中:損をしたこともいっぱいありました。
その時に、挫折している時ほど、直接知っていて信頼できる先輩が大事だと思いました。色々な相談に乗って貰えるし、困った時に助けてもらえる。

――:ああ、なるほど。それが今のゼミでの活動に繋がるんですね。

田中:はい。学生時代に、そういうOBとの交流が合ったら、あれほどしんどくはなかったと思うんですよね。
やっぱり、今思うと孤独でした。自分の考えを、全力でぶつけられる相手がいなかった。自分の考えが偏っている気もしたけど、それも分からなかった。
悶々としてましたね。


環境で人は変わる


――:その後、田中さん自身は、どうやって変わっていったんですか?

田中:実はこの後、私は中国の大学に留学したんです。
その大学には、学び直しや会社派遣で、社会人経験のある先輩の日本人が多くいました。そこで、年上の友人ができたんですね。その人達と色々なお話をさせてもらうことが出来ました。

――:それは大きな経験ですね。

田中:はい。視野が一気に広がった。孤独感もやわらぎました。
あと、私自身の見られ方も変わったんですよね。

――:見られ方、というと?

田中:僕が入ったのは中国の清華大学という学校ですが、結構名の知れたところだったんです。だから、名城大学からその大学に行ってから、周りの人が見る眼も変わった。
そうなるとね、自然と自分も変わっていくんです。自分の考え方や視座が、周りの見る眼に合わせて勝手に変わっていく。
だから、僕は、「人は環境で変わる」と思ってます。
 
――:確かに、自分を変えたければ、環境を変えろ、と言ったりしますね。

田中:そうなんですよ。
会社に入ってからも似たような経験をしました。
はじめに配属された国内営業で、私は全然結果を出せませんでした。当時は営業としての実力もなかったし、部署の体育会系の雰囲気にもなじめなかった。一個上の先輩から「そんなに仕事出来ないなら、俺の目の前から消えろ」とか言われたり。

――:それはすごい話ですね。

田中:実際、駄目だったんですよね、私の営業。下手くそでした。
でも、その後、中国向けのマーケティング部門に異動することになりました。そしたら、一気に結果が出てきた。部の雰囲気も自分に合っていたし、大学で学んだ中国語も仕事に活かせた。
そうすると、仕事も順調に進むようになる。周りの人も「田中、やるな」って認めてくれる。結果的に、異動した1年目も、翌年の2年目も、本部長表彰という賞を頂くことができました。

――:一気に状況が変わりましたね。

田中:でも、前の部署にそのままいたら、結果は出せないままだったと思うんですよね。やはり、環境の変化があったから、結果が出せた。

――:ここで改めて、環境で人は変わる、というのを痛感されたんですね。

田中:そうなんです。良い環境があれば、突出した能力がない人であったとしても、色々な可能性が開ける。逆に、能力があっても、環境が悪ければうまく芽が出ないかもしれない。
だから、私は、会社や大学の後輩には、本人がいきいきと活躍できる場所にたどりついて欲しいんです。

――:その意味では、就職というのがその第一歩ですね。

田中:はい。社会人にとって、初めに入る一社目の会社って、本当に大事だと思うんですよね。自分の体験から思うんですけど、社会人として白紙の時に学んでるからこそ、自分の血肉になる。そこで培ったものが、その後の社会人生活にずっと影響する。

――:分かる気がします。

田中:だからこそ、学生には、出来るだけ良いスタートラインを切れるようにしてあげたい。その支援をして、変わるチャンスをつかんで欲しい。

――:ゼミの学生さんは、就職活動で苦労されてる学生は多いんですか?

田中:正直、名城大学卒という学歴は、就職活動では有利ではないです。私は社会人としてリクルーター側もやりますし、学生の支援もしていますけど、やっぱり企業は大学名で未だに評価する傾向がある。大学名で足切りされてしまうも多くある。
でも、私は学生を見ていて、「足切りするのは違うだろう」って思うんですよ。別に、学生が悪いことをしたわけでもないのに、しっかり見ずに落とすのはおかしい。

――:大学よりも、社会人になってから学ぶことの方が多いですもんね。

田中:おっしゃる通りです。実際、大学って4年だけですけど、社会人は数十年続きますからね。その後の努力次第で、いくらでもうまく行く可能性なんてあるじゃないですか。
だから、佐土井ゼミの活動を通じて、企業側から「来て欲しい!」と言われるようにしたい。
見返したいんです。


挫折が、力になる


田中:あと、私、変に学生が諦めてるのを見るのが嫌なんですよ。

――:諦めるというと。

田中:僕は、やっぱり名城大学の中ではすこし特殊に扱われるんです。名城大学の後に中国の大学に行ったし、一部上場している会社に行きました。優秀賞なんかも貰っている。
そうすると、学生が「田中さんは、僕らとは違うんです」って言うことがあるんです。「田中さんみたいに将来うまくイメージが持てません」、と。
でも、その時、僕は「違うって、なんだよ」って思うんです。僕も、同じように挫折した所からここまで来てるので。
そういう時、「じゃあ、自分と似たような環境作って、お前らにも結果出させてやる」って、強く思うんです。

――:田中さんは、ゼミの学生さんに過去の自分を見ているんですね。

田中:そういう部分はあります。
「過去の自分を救いたい」って、結構大きなモチベーションだと思います。実は、ゼミの活動を手伝ってくれる社会人の人からも同じようなことを聞くんですよね。

――:その感覚は私も分かります。自分が失敗したからこそ、その痛みを思い出して、誰かを助けたくなることがある。

田中:そう。みんな、昔の自分の辛い経験を忘れずに覚えているんですよね。
このゼミの内容も、私自身が挫折から立ち直った経験を学生に再体験してもらっているところがあります。
大事だと思っているのは、まず、様々な大人と意見交換をする場を持つこと。そして、1つの目標に対してやり切って、社会に認められる経験をすること

――:まさに、田中さん自身が、中国の大学と社会に出てから積まれた経験から作られたプログラムなんですね。

田中:はい。そうすると、自信もつく。外から見た実績にもなる。

――:そう思うと、このゼミの内容自体は、田中さんの学生時代のコンプレックスに全てのはじまりがあるんですね。

田中:僕、人間はコンプレックスが一番力になると思っていて。
人間って、欠けてるものがある方が、頑張れるんですよ。自分に自信がないからこそ、そこを満たしていきたいと思える。特に、コンプレックスがあると、他人に認めてもらえる所まで頑張っちゃいますから。それが、人間の、一番のモチベーションになんじゃないかな。
ちょっと極端に聞こえるかもしれませんが、僕はコンプレックスしか力にならないって言ってもいいんじゃないかと思いますね。挫折があるからこそ、人は頑張れる。

――:なるほど……。成功者でも、大きな失敗経験をしている人も多いですよね。

田中:挫折した人間こそ、それを乗り越えた時に本当に力のある人間になれるんだと思います。
だからこそ、佐土井ゼミは、学生が挫折を乗り越えるための力を身に付ける場になって欲しいと思ってます。色々な活動を行って、自信をつけて欲しい。

――:それが、田中さんがゼミで目指している「しっかりとしたプール」みたいな場という事なんですね。
今日はありがとうございました。お話してみて、いかがでした?

田中:そうですね。
自分、ひねくれてるな、って思いました(笑)

――:あはは。でも、そういう部分も含めて、田中さんはみんなに好かれていることが伝わってきました。
今日はありがとうございました。

田中:ありがとうございました。


(取材・構成:竹林 秋人)

【前編】


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