結局、3階のテナントのゴミの処分は業者に依頼して10万円ぐらいの費用がかかった。それを負担するだけで安い家賃で借りれるんだから悪くない契約だ。長らく使用していなかったのと3階で階段しかないという悪条件もあって家賃は2階と同じ5万円、フリーレント期間は交渉の結果6ヶ月。
　2階のお店を営業しながら3階のゴミの処分や工事をしなければならなかったので、長めのフリーレントをもらえたのはラッキーだ。

　さて、調理師学校時代の同級生とお店を一緒にやってみようと盛り上がっていたその勢いで、BRASS MONKEYが3階に移転して空いた2階テナントではスペイン料理のお店をやることにした。
　なぜスペイン料理かというと、イタリアに行ったついでにバルセロナに寄った影響もあるし、さらに言うならスペイン料理かメキシコ料理のどちらかが旭川で流行るという予兆めいたものがあったからだ。予兆というより、全国的にそういう流れだったから、旭川はその流れがすごく遅れてやってくるから予想がつきやすいってだけなんだが。
　メキシコ料理に関しても代官山の有名なメキシコ料理のシェフの店まで行って色々と話を聞いたりしてきたところだったから、この頃はトルティーヤを焼いてみたり、トルティージャを焼いてみたり大忙しだった。
　結局、2階はスパニッシュバル『ELECTRIC SHEEP』にすることが決まり、メキシコ料理は残念ながらボツになってしまったけど。

　この頃は工事の進展具合などを小出しにしながらmixiで発信して、常に飽きさせないような投稿を意識しながら、オープンまでのストーリーを楽しんでもらう……そんな感じでナチュラルにマーケティングしていた。戦略的に考えていたというより、楽しくて発信していたらたまたまそんな感じになったってだけなのに、マーケティングとか言うとそれっぽくなるよね。

　スペイン料理のお店をやると選択したわけだけど、同じタイミングで中学校の先輩であり、フリーター時代にもお世話になった先輩がスペイン料理のレストランを旭川でオープンさせるという偶然が重なり、急に旭川にスペイン料理の風が吹き荒れたのは面白い出来事だったと思う。

　ここが七転び八起きのおそらく一起き目とニ起き目という感じだろうか。一転び目でついでにニ転びしておいて、一起き目でついでにニ起きしておくあたり、合理的というかめんどくさがりというかなんというか。

　3階になって30席、倍のスペースになったBRASS MONKEY。さらにこの頃はぶっ飛んだ考えを実行にうつしてみたくて、ホットペッパーに有名チェーン店よりもデカい広告を載せるというイタズラ的な作戦も決行してみることに。
　結果、3階に移転したBRASS MONKEYは平日も連日満席になるほどオープンから大爆発。ELECTRIC SHEEPも悪くないスタートを切り、このまま一気に飲食店で大成功という絵空事すら現実にできるんじゃないかと、その頃はそんな夢を見ていたと思う。

　もうそんな夢は覚えちゃないけど。