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名探偵 赤富士鷹(2005/全2話/各89分)

第一夜「ABC殺人事件」 原作:『ABC殺人事件』(1936)
第二夜「愛しのサンドリヨン」 原作:『ゴルフ場殺人事件』(1923)


ドラマ概要

2005年12月29日と30日に放送された、アガサ・クリスティーのポワロシリーズを昭和十一年の日本を舞台に描いたスペシャルドラマです。
ラジオをキーアイテムとして、丁寧に活写される戦前の昭和という舞台で、アガサ・クリスティーの物語を楽しめます。


感想

本放送の時に最高に楽しみ、その後も録画を何度も観ているドラマです。
その後のシリーズ化も期待していましたが、叶わず残念に思ったのを覚えています。

幻になってしまった東京オリンピックについてなど時代の話題や、警察の横暴な様子など当時の空気感をしっかり描写し、事件自体もシリアスに描いていますが、レギュラー陣を中心に日常でコミカルな雰囲気を出してくれているため、重くなりすぎず楽しく観ることができます。

赤富士鷹は如月大正の父親、如月慎次郎の親友であり相棒でありました。
そのため、赤富士と如月の関係は、原作のポワロとヘイスティングズの関係と違い、父を知りたい若者と見守る保護者のような関係になっています。

第二夜の原作選択でもわかるように、如月の存在がシリーズの軽い縦軸になっています。
父を知り、人を好きになり、人間として成長する如月。
この部分を深めて続編を見たかったな~、と今でも時々考えます。

物語も、変に原作をアレンジせず、元の物語を大切にしながら、日本を舞台に換骨奪胎しており、とても好ましいものになっています。

今でも1年に1回は見たくなる作品ですが、シリーズ化どころか、再放送やソフト化、配信されることもないためとても残念です。

三谷幸喜さんが脚本を書いている『勝呂武尊シリーズ』と共に、日本らしさを全面に出した、日本を代表するクリスティーの映像化だと思います。

録画が見れなくなる前には、ソフト化や配信がされて欲しいとNHKの方を向きながら祈ってます。

第一夜「ABC殺人事件」個別感想
ABCをラジオのコールサインに変えて、ラジオを物語に組み込んでいるのは、当時も素晴らしいアイデアだと思ったものです。
これに合わせて奥村二郎(原作のカスト)の仕事もラジオ商になっています。

謎の連続殺人鬼の名前がJ.O.になっている、ローマ字の書き方がヘボン式で記載されているなど、日本であることや昭和という時代にしたことをしっかり物語に組み込んでいるのが好ましかったです。
登場人物の扱いにおいて最大の違いは、第一の被害者の夫・吉村幸造が最後まで関わることだと思いますが、この改変も良かったと思います。

奥村二郎に話しかける男性の役で、『名探偵ポワロ』のポワロの吹替でおなじみの熊倉一雄さんが出演しているのも嬉しいサプライズでした。

第二夜「愛しのサンドリヨン」個別感想
物語開始、「前畑がんばれ!」とベルリンオリンピックで盛り上がる赤富士の様子は、伊東四朗さんのコメディアンとしての面白さが出ています。特に、泳ぐ真似をするところが「地中海殺人事件」のピーター・ユスチノフのポワロを思い出して好きです。

如月も負けじと、美しい女性に「自分が赤富士だ」と噓をつき、別の女性には「ラピスラズリのように美しい」とか言い出し、エンジン全開で良いです。

「前畑がんばれ!」や、タイトルにもなっているサンドリヨンを、物語の展開に合わせて回収するのも巧みでした。

「わたしにはかけがえのない友人がおりました。
彼は最後の最後まで楽しい物語を書き続けました。
人間の美しさも、優しさも、悲しさも、醜ささえも、皆楽しい物語に仕立てたんです。
彼の小説を読むたびに、人の創造力とは、かくも果てしなく、希望に満ちているものかと嬉しくなったものです。
そんな彼がラジオの誕生を心待ちにしていました。
そして、それはきっと、幸せな楽しい道具としてこの国にやってくるだろう、そう言って。
その通りになりました。私は、ラジオのある光景がとても好きです。
そのラジオが、殺人に利用されるなんて。本当に、がっかりです」

名探偵 赤富士鷹 第一夜「ABC殺人事件」より
赤富士が親友・如月慎次郎とラジオについて語る場面

あらすじ(NHK公式ホームページより)

第一夜「ABC殺人事件」
昭和11年、赤富士鷹(伊東四朗)が営む古書店に、親友の忘れ形見、如月大正(塚本高史)が訪ねてきたとき、犯罪をほのめかす謎の手紙が届いた。
赤富士が心配していると、長年のパートナーである警視庁の木暮刑事(益岡徹)から電報がくる。案の定殺人事件が発生し、頭文字Aの町でAさんが、頭文字Bの町でBさんが殺されていく。
赤富士の元に送りつづけられる殺人の予告状、果たして犯人の狙いとは…。

第二夜「愛しのサンドリヨン」(原作:ゴルフ場殺人事件)
如月が「サンドリヨン(シンデレラ)」の本の買取りの依頼に来た美女(吹石一恵)に一目ぼれしたとき、事件がおきた。
被害者は大きな洋館に住む画商の夏木和之進(佐野史郎)。使用人によれば、犯人は夏木の妻・絹子(名取裕子)を縛って猿轡をかませた中国人で、夏木が近所に住むクリーニング店・羽立志摩子(多岐川裕美)と関係を持ったための天罰だという。
赤富士がふと過去の事件を思い出したとき、再びサンドリヨンの美女が現れる…。

キャスト

赤富士鷹/伊東四朗
如月大正/塚本高史
木暮松実/益岡徹
榎本修三/山崎樹範
 明鈴堂/ミッキー・カーチス

第一夜「ABC殺人事件」ゲスト
 吉村幸造/大杉漣
 奥村二郎/杉本哲太
  千田勝/山崎一
 土井雪江/中原果南
馬殿真知子/大谷允保
  千田菊/音無美紀子
 真鍋辰子/松金よね子
真鍋百合子/いとうあいこ

第二夜「愛しのサンドリヨン」ゲスト
森下やよい/吹石一恵
 夏木虎男/柏原収史
   竹子/左時枝
   由松/不破万作
羽立瑠璃子/星野真里
羽立志摩子/多岐川裕美
夏木和之進/佐野史郎
 夏木絹子/名取裕子

スタッフ

原作:アガサ・クリスティー『ABC殺人事件』『ゴルフ場殺人事件』
脚本:藤本有紀
演出:吉川邦夫
音楽:服部隆之


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