見出し画像

「『タワーリング・インフェルノ』愛のテーマ」につて考えた

先日、RKK(熊本放送)ラジオの「いい曲プレゼンターズ」に出演させていただいた際、我が心の映画『タワーリング・インフェルノ』の「愛のテーマ」(We May Never Love Like This Again)をかけていただいた。アカデミー歌曲賞を獲得した名曲で、歌っていたモーリン・マクガヴァンは本編中のパーティシーンにも登場して歌唱を披露していた。

忘れないうちに寄り道しておくと、本作のプロデューサー、アーウィン・アレンを「パニック映画マスター」の地位に押し上げた『ポセイドン・アドベンチャー』で同じくオスカーを獲った「モーニング・アフター」もマクガヴァンのレコードが大ヒットしたが、そのためか、劇中で同曲を歌っている(という設定の)キャロル・リンレーの歌声もマクガヴァンが吹き替えているという誤解が定着していた時期があったが、実際は他の歌手。

『タワーリング―』に話を戻すと、あの「愛のテーマ」こそが、私が小学2年生の時に生まれて初めて買った映画音楽のレコード(EPだけど)。厳密には、最初に買ったのは中沢厚子による伝説の(笑)日本語カバー・バージョン。当時、私が住んでいた田舎町のレコード屋にはオリジナル版がなく(見つけ切らなかっただけかも知れないが)、日本語版しかなかったので、「同じ歌だからいいだろう」と妥協して買った。しかし、聴いてみたら「やっぱり違う」と小2のくせにダメ出しして二度と聴かず、しばらくしてようやくマクガヴァン・ヴァージョンをゲットした。いや、LPが店頭にあったら(見つけていたら)絶対にそっちを買っていたはず。あのオープニングの曲が一番好きだったから。その後、中3の時にNHK-FMの「夜のスクリーン・ミュージック」でそのタイトル曲を、大学生の時に中古レコード屋でLPを、2001年に完全版サントラCD(一部、音源不良の楽曲り)、2019年に損傷無しの音源+未使用・未収録楽曲+アルバム用音源まで網羅した超完全版(?)CD…と、「生きててよかった」的なコレクションの進化を歩んできた。

で、完全版サントラを聴いて気が付いた本作の音楽構成の中でも、一番重要と思われる点について。

ジョン・ウィリアムズによる本作の音楽の柱は、映画音楽の手法としては王道のライトモチーフの手法が採られている。例のメイン・タイトルは、オハラハン隊長(スティーヴ・マックイーン)ら消防士たち全体のテーマと言うか、消火・救助活動のモチーフのみで構成。もう一人の主人公ダグ(ポール・ニューマン)とスーザン(フェイ・ダナウェイ)、準主役クラスのハーリー(フレッド・アステア)とリゾレット(ジェニファー・ジョーンズ)の2組のカップルに、それぞれ違うモチーフが与えられている。それぞれの「愛のテーマ」と言っていい楽曲だ。

だが、どちらも、最初に触れた「愛のテーマ」とは別の曲である。こちらはウィリアムズのオリジナルでインストのみ、「愛のテーマ」は「モーニング・アフター」と同じくアル・カシャとジョエル・ハーシュホーンの作詞・作曲。

で、この「愛のテーマ」のメロディもパーティ以外のシーンで劇伴として流れるのだが、じつはそれはすべて、映画の3分の1ぐらいで退場してしまう悲運のカップル、広報部長ビグロー(ロバート・ワグナー)と秘書ローリー(スーザン・フラネリー)からみのシーン。つまり、あの「愛のテーマ」はこの2人のモチーフという扱いという解釈もできるのだ。

考えられる可能性は2つ。
(1)実は最もドラマチックな印象を与えるこの2人は影のメインキャラ、という扱いで、その意図を反映した音楽演出。
(2)どうせ俺が書いた曲じゃないから、途中で死んじゃう連中のモチーフにしてしまえ!というウィリアムズの陰謀。

思えば、『ポセイドン―』でも、「モーニング・アフター」のメロディは、ノニー(リンレー)が歌うシーン以外は彼女がらみのシーンだけに薄く流れるのみだった。
でも、本作のファンとしては(1)であって欲しい。

<オリジナル版「愛のテーマ(We May Never Love Like This Again)」>

<中沢厚子による日本語カバー>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?