婚活アプリの男

ある日の雨の匂いを嗅ぐと思い出す海で浮き輪にのった小さな私。
いい思い出でも嫌な思い出でもなくただ海は汚いと初めて感じた、そんな瞬間を思い出させる。

小さいころは気をつかって苦しんで、悪いことして、もののけ姫に出てくるミミズみたいな化け物を恐れ、死ぬことを恐れ、臆病者だった。

私は今でもそんな一面があるんだと自覚しつつ生きている。だからある程度幸せな部類に入れればそれはそれはいい人生だったなと思えると思う。

私は昨年結婚できた。出会いはほぼ婚活アプリで、一年で50人と会った。セックスもしたい人とした。

ヤリチンはその中の3分の1、恋人目的は4分の1、結婚に本気な人は5分の1。
私はヤリマンであり結婚相手も探していたから15分の1くらいだろうか。

好きな人は伊藤くん、ザキさん、タトゥーさん、エビ、けいくん、亀戸の6人。
けいくん意外とは付き合えず、けいくんもまたすぐ振られた。
私はその度に人生が嫌になってもがいた。

伊藤くんとは電車一本で会える距離で、アプリ写真の笑顔がとても素敵だったし、元旦那のような優しそうな雰囲気もあった。
伊藤くんはBUMP OF CHICKENがとても好きで、ビレバンを愛する男だった。ビレバン好きな女はこれまたビレバン好きな女で、私もそうだった。私はカラオケが上手な男に弱い。2回目のデートでBUMP OF CHICKENを歌う伊藤くんの信者となりタンバリンをバンババンと叩いて黄色い悲鳴をあげた。3回目のデートでは伊藤くんを自称おっぱい服で落とそうとした。GUのグレーのタートルネック。これは全男と会う度に着て行った。これでほぼほぼ男とセックスできた、そんな服。伊藤くんの時は失敗した。私は伊藤くんとセックスするために今日わざわざ来たのに、なぜだ。そう思うと心臓がドクドクと動悸がした。その時に帰ればよかったものの私は伊藤くんの手を掴んだ。『手を繋ぎたいです』そう川崎駅で叫んだのだ。そのまま伊藤くんに連れられて、家に行くのかと思ったらCDショップへ連れて行かれた。そこで彼はBUMP OF CHICKENのニューアルバムを買い、その後私を川崎駅まで送り、最後に頭をポンポンとし改札をあとにした。それが伊藤くんと会った最後。伊藤くんとバイバイしたあと、友だちに迎えにきえもらい、私は泣き崩れた。
何に泣いたのかわからないし、どんな感情かも思い出せない。ただただ泣き崩れ、1週間ごはんも食べれず、不眠症となり、親に連れられて病院へ。そこで初めて精神安定剤を飲んだ。私の婚活アプリはこんな感じで始まった。


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