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ストレスとゲーム


はじめに

 ゲームにストレスは必要なのか、無い方が良いのか、そういう話題を見まして、自分なりの考えをまとめてみようと、この記事を書き始めました。
 で、書こうとしたらストレス、という用語の定義が必要と分かりました。というのはストレスという用語が人によって様々な使われ方をしていると分かったのです。
 ですので、いきなりストレスの定義からお話を始める事と致します。

ストレスの定義

 元は物理学で物体に外部から力が加わった際に生じる歪みの事を示していたそうです。
 それが医学の方に転用され、ストレスの原因をストレッサー、結果をストレス反応、と呼ぶのだそうです。
 どうやら一般的には、ストレッサーとストレス反応のどちらもストレスと呼んでいるようです。
「ストレス(反応)で胃が痛い」
「部長の叱責がストレス(ストレッサー)だ」
 というような感じでしょうか。

ゲームでのストレス

 さて、ゲームでのストレスというとても狭い範囲でのストレスの定義です。
 ゲームにおけるストレスとは、プレイヤーに心理的圧迫を与えるもの、と定義してみようと思います。
 心理的としたのは、物理的なストレスはスマホやSwitchのゲームではあまり大きくないと思いますから。もちろん、VRゴーグルを被って、スライドする床を実際に走るゲーム体験の場合、物理的なストレスも加わると思いますが、そちらはこの記事では扱わない事にします。
 圧迫としたのは、プレイヤーが何かを行いたい時の障壁と感じる心理的要因、という意味合いからです。
 それを加えると「ゲームにおけるストレスとは、プレイヤーが何かを行いたい時の障壁と感じる心理的要因」という事になりますね。
 これをストレッサーとストレス反応に分解すると「プレイヤーが何かを行いたい時にそれを阻害すると感じる要素」がストレッサーで、「阻害されて発生した心理」がストレス反応、という事になりそうです。

ゲームに関連しそうなストレスの種類

 さて、ストレスの定義の後はゲームに関連しそうなストレスの種類とその説明を書こうと思います。

短期記憶のストレス

 脳の記憶には短期記憶と長期記憶の2種類があるそうで。詳しい事は省きますが、短期記憶がいっぱいになると、思考が鈍くなります。
 同時に複数の事を行わないといけない場合にも、短期記憶が消費されるので、既に短期記憶が消費されている状態では上手く行う事ができにくくなります。
 プレイヤーの短期記憶を圧迫する状態があると、プレイヤーはストレスを感じる訳です。上手くプレイできないから。

長期記憶によるストレス

 長期記憶は、その名の通り長い間記憶される脳の記憶方法です。
 ゲームが数日以上に渡り、その間、あるイベントの内容を覚えていないといけない、とかいう場合など、長期記憶によるストレス(この場合、思い出す都度に発生する)が発生します。
 記憶が曖昧な場合など、攻略サイトで確認するなどの手間がかかるためです。ゲーム内で現在進行しているイベントの状況を管理している場合でも、プレイヤーが欲しい情報がない場合、やはり思い出せないプレイヤーにはこのストレスが発生する事でしょう。

失敗によるストレス

 ゲームに失敗はつきものです。失敗とはつまり、やりたい事ができていないとゲームに突きつけられた状態、と言えると思います。
 先の「プレイヤーが何かを行いたい時の障壁」を明確に意識させるものとなりますから、大きなストレスと言えると思います。
 上手く出来たゲームの場合、プレイヤーがなぜ失敗したかをプレイヤーに認識させ、どうしたら上手くいくかのきっかけを与えるようにしていると思います。

解法が見つからないストレス

 こちらは、実は失敗よりもタチの悪いストレスです。
 失敗してどうして良いか分からない、という状態や、失敗はしていないが、どう考えても解けない状態だ、詰んでいる、と気がついた状態で発生するストレスです。

ミスに気がついた時のストレス

 これは大きな失敗ではないですが、ちょっとした操作ミスや手順の間違いなどで生じたミスに気がついた時のストレスです。
 これも積み重なると、大きなストレスとなります。

未来予測によるストレス

 このまま進むとミスや失敗になる、という未来予測ではなく、クリアするまでにこれくらいの手順と時間がかかる、と認識した際に発生するストレスです。
 その手順や時間がクリアによって得られる報酬よりも大きいと認識した場合、顕著に現れます。
「これクリアするのにこれくらい苦労するんだ」と分かってやる気を失う、というケースですね。

思った通りに操作できないストレス

 このストレスはゲームを作る側がよく意識するストレスではないでしょうか。操作性が悪い、という評価につながるストレスですから。
 ただ、このストレスは単に操作がうまく行かない、という表面上の現象に留まらず、プレイヤーがこういう入力をしたい、という操作が、指示階層の奥に有って、入力に時間がかかる、というインターフェース設計の問題という面もあります。
 どうしてこのタイミングで、あの項目が無いんだ!っていうのも含まれます。

飽きからのストレス

 これは未来予測によるストレスと良く似ています。
「この先もこんなのがずーっと続くんだろうなぁ」という時に感じるストレスです。
 ゲームの展開にこれ以上のワクワクドキドキが期待出来ないと認識した時に感じるストレスです。

不運によるストレス

 ゲームの中の要素に乱数要素があったり、たまたま指を滑らせたり、などプレイヤーには制御不能な出来事に起因するストレスです。
 これは事故のようなものですので、このストレスを完全に無くす事は諦めた方が良いように思います。(乱数の場合は修正できる可能性はあるとは思いますよ)

現実のストレス

 現実のストレスは、ゲームをプレイする場合にも影響を与えますから、リストに加えています。
 そうですね、例えば現実のストレスが多く短期記憶を圧迫している場合、同時に複数の情報を記憶しなければならないゲームは、多分、プレイしたく無いと考えるだろうなと。
 こんな感じで、現実のストレスはゲームプレイに影響を与えると考えています。

ストレスの蓄積と解放

 ここからは、ストレスが蓄積していくのと、その解放についてをゲームのパラメータの様に説明していこうと思います。
 攻撃、防御、ダメージ、HPの減少の様な説明です。

ストレスの蓄積

 ストレスの蓄積をゲームのダメージ式の様に書くと、下のようなるとします。
 あくまで思考実験的なもので、学術的なエビデンスはありません。悪しからず。

新しいストレス蓄積値=今のストレス蓄積値+(ストレッサーの強度ーストレス防御値)
 ストレッサーの強度ーストレス耐性値 > 0の場合として

 ストレス蓄積値が、その名の通りストレスが溜まった量です。
 ストレッサーの強度が、ストレスの原因となる現象の強さです。
 ストレス防御値が、ストレスに対しての防御力です。相当個人差があると思います。

 こうしてストレス蓄積値が上昇していくと、ある時、下の状態に到達します。
 ストレス蓄積値>ストレス耐性値

 こうなると、ストレス反応が現れます。
 ゲームの場合、プレイヤーはゲームを止めてしまいます。
「クソゲー!」と叫ぶかも知れません。

ストレス蓄積値の減少

 ストレス蓄積値の増加の反対で、減少する場合についてです。
 どういう時減少するかというと、ストレスの定義の所で書いた「プレイヤーが何かを行いたい時の障壁と感じる心理的要因」が無くなった時、つまり、プレイヤーがやりたい事を出来た時、と言う事になります。
 同じように式にすると、次のようになります。

新しいストレス蓄積値=今のストレス蓄積値ー(ストレス解放の強度ー慣れによる阻害)
 ストレス解放の強度ー慣れによる阻害 > 0の場合として

 ストレス解放の強度は、ある事をプレイヤーが達成した結果、ストレスが解放される強度を表しています。何をやったかで強度は変わります。インターフェースで正しく入力できたなどは小さく、ボスを倒した、などは大きい、という傾向があると思います。
 慣れによる阻害は、そのストレス解放の強度と対となるパラメータで、達成した内容によって、繰り返して行われると、解放の強度が下がっていく、という事を表しています。このパラメータを深く考察するのは、この記事では避けようと思います。相当深い内容だと思いますので。

ストレス解放の効果と中毒性

 ストレス蓄積値>ストレス耐性値 となった時にストレス反応が起こる、と前に述べました。
 では、ストレス解放が起こると、何が生じるでしょう?
 ストレス解放で起こるのは「やったー!!」という快刺激です。達成感と言っても良いでしょうが、快刺激と言った方が適していると思います。
 私はこれが人がゲームにハマる原因だと思っています。
 この刺激の強さは下の様になると思います。

ストレス解放による快刺激の強さ=func(新しいストレス蓄積値ー今のストレス蓄積値, 現実のストレス蓄積値)

 関数式になっているのは、プレイヤーの持つ現実のストレスの度合いにも影響を受けるから、と考えているためです。
 現実が辛ければ辛いほど、ゲームによる快刺激を強く受ける、という意味合いです。
 現実のストレス蓄積値が0でも、快刺激は発生しますが、強さは弱くなります。
 現実のストレス蓄積値とストレス解放による快刺激の強さは、生の相関になる関数と考えています。(多分、比例でなはく、成長曲線の様に曲がった形なんだろうな、と)
成長曲線:http://www.kogures.com/hitoshi/webtext/stat-seicho-kyokusen/
 この関数あたりを含めて、科学的なエビデンスに基づいてお話ししている訳ではなくて、個人的な経験と伝聞(の観測)などによるお話しです。ご注意を。
 一つ、具体的な例を。
 試験の前の日程、ゲームをしたくなる。
 そういう経験があれば、先ほどの関数式が理解しやすいと思います。
 さて、これが本当だとすると、現実が辛いとゲーム依存(中毒)になりやすい、という傾向があると演繹されます。
 依存や中毒というと、何やら悪い印象がありますが、これは重度の場合のお話で、大抵はゲーム沼にハマルる、という事を意味しています。
 ゲームの良い点について述べるのは、この記事でフォーカスしている箇所ではありませんので、あまり多くは述べませんが、バランスを取るために少し。
 ゲーム中で獲得した問題解決手続きの学び方などは、現実の問題対処にも役立つ。
 リソース分配の技術は、現実にも応用できる。
 そして、ストレス解放による刺激の強さの関数に現実のストレス値が入っているのには、もう一つ理由があるのでした。
 それは「ストレス解放時に、現実のストレス蓄積値が軽減する」という効果です。
 あ、勘違いしないで欲しいのですが、現実のストレッサーが無くなる、という意味ではありません。生じた心理的なストレス蓄積値が軽減される、という意味です。
 これにより、前向きな気持ちになったり、心理的なプレッシャーで克服できなかった問題が解決する可能性は高まると思います。
 そして、ここがゲーム制作側としては注目点なのですが、現実のストレッサーはそのまま残りますから、ストレッサーがそのままなら、いずれ現実のストレス蓄積値は増加し、それを軽減するためにゲームでのストレス解放を行いたくなる、とい点です。
 これがゲームの中毒性です。(と私は思っています)

現実のストレスとゲームのストレスの相関

 個人の抱えれるストレス蓄積値には上限があり、これは現実のストレスとゲームのストレスの総和となると考えています。

個人の抱えれるストレス蓄積値の上限 ≧ 現実のストレスの蓄積値+ゲームのストレスの蓄積値

 とすると、現実のストレス蓄積値が多いとゲームで耐えられるストレス蓄積値は低くなります。
 つまり、負の相関、という関係が成り立ちます。
 その結果、ゲームでストレス蓄積値を上げて解放して、快刺激を与える、という手法と相容れない状態が発生します。
 つまり、現実のストレス蓄積値が低い場合にはその手法がとても有効ですが、現実のストレス蓄積値が高い場合には、ゲームでのストレス蓄積値は低い状態を保つ方が良い、という事になります。
 では、快刺激をどのように増やすのか、というと先の

ストレス解放による快刺激の強さ=func(新しいストレス蓄積値ー今のストレス蓄積値, 現実のストレス蓄積値)

 この式の現実のストレス解放に繋がるような結果を与える事が有効なのでは、と思うのです。
 端的に言えば「無双」です。
 現実にはできない事を行なって、現実のストレス蓄積値を逆手に取って快刺激にする、という手法です。
 おそらく「無双」以外にもこの効果を得られる手法はあると思われますが、この記事ではこれ以上触れない様にしようと思います。

おわりに

 さてさて。
 ストレスのお話でしたが、終わりの方でゲームの中毒性について言及する事になっていますが、私はゲームを作ったし作っている人間で、ゲームが単純に悪いもの、という捉え方はしていません。
 どんな物も、適量がありそれを超えると毒物になり得ますから。
 ゲームも適量なら人生に彩を添える路傍の花、と思います。
 この記事を読まれて、ゲームとストレスについて、少しだけ理解が深くなったとお感じになって頂ければ幸いです。

宜しければ、ゲーム制作などのクリエーター活動のサポートをお願い致します。