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『Luschiim’s Plants』

※この記事は、「ほんやくWebzine」に寄稿したエッセイの転載です。

前回に引き続き、ブリティッシュコロンビア(BC)州の自然に関わりのある本とその著者についてご紹介します。

Luschiim’s Plants

『Luschiim’s Plants』は、民族植物学者のナンシー・J・ターナー(Nancy J. Turner)博士がバンクーバー島の先住民族カウィチャン・ネイション(Cowichan Nation)のルスチーム・アービッド・チャーリー(Luschiim Arvid Charlie)名誉博士に教えを請い、食料、材料、薬として先住民族に利用されてきた地元の植物に関する知識をまとめた本です。

植物は英語の一般名、学名に加え、フルクミーナム語(Hul’qumi’num’)の名前で紹介されています。1種類ずつ概説に続いて、カウィチャン・ネイションでどのように使われているのかについてルスチームの解説が載っています。ターナーによるルスチームへの聞き取りの形を取っており、解説を読んでいると、野外調査の現場でターナーと一緒にルスチームの話を聞いているような感覚を覚えます。

例を挙げてみましょう。Western Red Cedar(ベイスギ)のフルクミーナム語名はxpey’。「クペイ」と読みます。カヌーやバスケットの材料など用途の広い木であることから、スギの板を指す場合はxexpey’、樹皮ならsluwi’など、さまざまな呼び名があります。ルスチームによれば、かつてカウィチャンの人々は生まれてすぐベイスギの樹皮をほぐして作ったブランケットでくるまれ、成長してからはベイスギでカヌーや建物、さまざまな道具を作り、最後にはベイスギの棺に入るといった具合に、一生をベイスギと共に過ごしたのだそうです。

また、私の好きなTrailing Wild Blackberry(キイチゴの一種)の葉には薬効があり、Red Alder(ハンノキ)の樹液は甘く食用になるなど、身近な植物について現代の生活にも役立つ知識が身につくのも楽しい点です。

ナンシー・ターナーは、カナダ西部の先住民族が持つ伝統的知識の体系や土地と資源の管理方法に関心を持ち、植物学と生態学に人類学、地理学、言語学を組み合わせて研究を続けてきた民族植物学の第一人者です。50年以上にわたり、先住民族コミュニティと共に、土地固有の食料、材料、薬、植物に関する言葉など植物や土地に関連する伝統的知識を記録し保存する活動を続けてきました。

ルスチーム・アービッド・チャーリーは3歳より周りの大人たちから植物や薬について学び始め、長じてからは狩猟と漁に勤しみ、伐採業に就き、自然と森に関する知識を深めました。1970年代にカウィチャンの土地と文化に関わる仕事をするようになって自分が持つ言語、文化、自然に関する知識の重要性に気づき、その後数十年にわたり、フルクミーナム語の記録と保全、および伝統的知識の継承に取り組んできました。

ターナーとルスチームの15年以上に及ぶ交流から生まれた『Luschiim’s Plants』。この本には、自然と共に暮らしてきたカナダ先住民族の伝統文化を次の世代に残したいという人々の希望が詰まっています。


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