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誰にも言えない

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  • 日々のこと

    ちょっとした出来事から、ぐるぐる考えるのが悪い癖。

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    映画を観て考えたこと、など。

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最近の記事

蛇足①

7月某日、数か月前に分かれた恋人から、連絡が来た。 21時過ぎに着信が2回。 気づかなかったふりをしてやりすごした。このまま音沙汰なく終われという念を送って。 しかしそんな思いも虚しく、翌日も連絡が来た。 朝10時、着信が1回と、LINEのメッセージ。 「話したいことがあるから会いたい」 逃げられない、そう感じた。 わたしの平穏でハッピーなおひとり様ライフに終止符が打たれた瞬間だった。 予想できた展開は2つ。 ①嫁に俺たちの関係がばれたから慰謝料を払ってくれ ②離婚したか

    • 父が死んだ

      タイトル通り、先日父が亡くなった。 わたしが嫌いで仕方なかった父が。亡くなる前の日、母から「もう長くないかもしれないから会いに来て」と言われて会いに行った。父は6年前から癌だった。ほとんど骨と皮になった父は、息も絶え絶えで、今にも死んでしまいそうだった。介護用ベッドの側へ行くと、手を差し出してきた。 母に促されてその手を取ると、父はほとんど息みたいな声を絞り出して言った。「お前は幸せになれるから。愛してる」あーあ、早く終わってくれ。こんな茶番やってられない。 そんな気持

      • 人類カテゴライズ問題

        Twitterで読売新聞の「美術館女子」が話題になっていた。 個人的には「発案者はインターネット知らないのかな」という感じ。 昨今、「〇〇女子」みたいなカテゴライズを安易にやると大火傷するのはちょっと考えたらわかりそうなものだ。 ただ、これをめちゃくちゃ批判する人もいかがなものかなと思う。 それは「〇〇女子」という言葉がカテゴライズである、ということ自体が間違いかもしれないから。 これは、恋愛における好みの話で考えるとわかりやすいと思う。 人間にはそれぞれ、好きなタイプが

        • 知識をひけらかす人、無知を恥じる人

          タイトルにある人たちが苦手という話。 知識が豊富な人はすごい。 でもそれをひけらかして、知識が少ない人に対してマウントを取る人間はめちゃくちゃ嫌い。 これを書くに至った経緯は省くけれど、まあそういう人間が身近にいるということです。 友達のことではないから友達は安心してほしい。 知識って基本的には、求められたとき以外は披露すべきではないのかなと思う。 求められる人間としては教授とか。 教授のもとに集まる生徒は知識の取得を目的としている(はずだ)し、教授は積極的に知識を披

        蛇足①

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        記事

          宅・勤・考

          日高屋が大学の近くにあったからよく使ってたんだけど、「ラ・餃・チャ」のネーミングにいつまでもウケてた。在宅勤務・自宅待機を合わせて2週間が経ったのでその間に考えたことなど書きます。 まず着手したのは部屋の片づけ。家に長時間いるなら、とにかくほとんどを過ごす自室を快適にするより他ない。同じことを考えている人は多そう。わたしの片づけは、収納ツールを捨てることから始める。服を整理するなら衣装ケースから捨てて、次に納まらない服を捨てる。物を捨てるのは結構好き。理由はわからないけど、

          宅・勤・考

          「残り火はまだ熱い」

          森アーツセンターギャラリーのバスキア展に行った。 正直わたしは19世紀美術こそ至高だと思っているところがあり、グラフィティアートなんかはあまり興味が無かった。 でも友達に誘われて行ってみて、結論から言うと、すごく良かった。心が震えた。 まずなんといっても、展覧会において全部がバスキアの作品であるというボリューム感がすごい。 最近だとムンク展も同じ形をとっていて、その際も満足度が高かったし、ムンクのファンになった。 バスキアの作品は、子どもの落書きみたいだ。 「自分で

          「残り火はまだ熱い」

          『El Angel』自由の話

          アップリンク渋谷で、『El Angel:永遠に僕のもの』を観た。 この邦題はあまりに説明的だなあと思うけれど、ポスターには原題もレイアウトされていて、スタッフの愛を感じる。 話の流れは思っていたよりも淡々としていて、それが良い。主人公カルリートスには殺意や葛藤がなく、彼にとって殺人は特別な手段ではないことがわかる。殺人鬼という形容は正しくないだろう。 カルリートスは「生まれながらの盗人」で、あらゆる家屋にするりと侵入しては、目ぼしいものを持ち帰る。 盗んだものは人にあげる

          『El Angel』自由の話

          『オニキス』#04 (終)

          翌日も、翌々日も、そのヒトはやってきました。 毎回、芝刈機みたいに隈なく芝生を廻っては、ため息をついて帰っていくのです。 ぴっちりと切りそろえられた黒髪のショートボブに、狐の目のような鋭いシルエットに縁取られた瞳が印象的でした。 いつだって真紅に塗られた挑発的な唇は、どこか強がっているようにも感じられました。 彼女が来るようになってから一週間が経った朝、いつものように水浴びをしてから、カラスは急に思い当たりました。 もしかして彼女は、何かを探しているんじゃないだろうか。

          『オニキス』#04 (終)

          『オニキス』#03

          翌朝目を覚ますと、まだ公園にヒトが来ていない時間でした。雲は少なく、気持ちのいい朝です。 カラスは住処から最も近い水飲み場まで飛んで行き、朝の水浴びをしました。 そのまま、ヒトが来ないうちに公園内の宝探しをしようと考えたカラスは、芝生の上をちょんちょんと歩き回りました。 噴水のある池の近くまで来ると、カモの親子が列になって散歩をしているところでした。 「あらカラスさん、おはよう。ほらみんな、挨拶なさい!」 「おはよう!」 「おはよう!」 「おはよう!」 「おはよう!」

          『オニキス』#03

          『オニキス』#02

          カラスが住んでいるのは、渋谷駅から少し飛んだところにある大きな公園です。 この公園にもヒトは来ますが、皆芝生に寝転んだり、何か道具を使って遊んだり、駅前よりも穏やかに過ごしています。カラスはこの場所が大好きでした。 虫やミミズでお腹を満たしてから、カラスは住処に戻りました。 そこには、カラスが今まで地道にあつめてきた宝物が所狭しと並べてあります。 たとえば、渋谷の路地裏で拾った穴あきの円盤。これはヒトの服によく付いています。貝殻の内側のように、七色に光るところが気に入っ

          『オニキス』#02

          『オニキス』#01

          ヒトが溢れかえる大都市渋谷で、カラスはいつだって一人でした。 ある日の昼下がり、山手線のホームの屋根から、カラスは渋谷の街を見回しました。今朝は雨が降ったので、そこら中に水溜りができています。ビルの谷間は、怪盗が宝石をばらまいたみたいにぎらぎらしていて、思わず目を細めました。 カラスは美しいものが好きでした。 ハチ公の頭上に降り立つと、待ち合わせをしていたヒトたちが眉間に皺を寄せてカラスを一瞥しました。 カラスはそんなのには慣れっこなので、何も思いません。むしろカラスは

          『オニキス』#01

          あとがき⑵愛を伝えたいというエゴ

          「思っていることは言葉にしないと伝わらない」 擦り切れるほど使われてきたフレーズだけれど、「そうだよなあ」と思う。 たしかに思っていることを直接人に伝えるのは勇気が要る。SNSで不特定多数に発信する方がずっと気が楽。だからこそ、特定の誰かに何かを伝えるということは、とても大切なことだ。 でも世の中には、場合によっては伝えない方がいいこともある。 例えば、愛。 「愛だって伝えるべきだ」と言う人もいるだろう。それはわかるし、異論はない。 でも、全ての場合において「愛は伝える

          あとがき⑵愛を伝えたいというエゴ

          あとがき⑴誰だって特別になりたい

          薔薇の花束をくれた後輩のナルシズムはいきすぎていた。 でも、彼と同じような気持ちを誰でも抱いているんじゃないか。 「自分は天才だ」 「自分は美しい」 そう言い聞かせるのは、自分が紛れもなく凡人であるとわかっているから。 わたしは昔から、絵を描くのが好きだった。 小学生の頃は県展で毎度のように賞を取っていたし、中学生の頃は修学旅行やなんかのしおりの表紙はいつもわたしの絵だった。 「特技は?」と訊かれたら、「絵を描くことです」と答えられた。何の迷いもなく。 でも、大学生

          あとがき⑴誰だって特別になりたい

          『薔薇の花束』#05

          送られてくる詩を読んでいてわかったのは、彼はひどくロマンチストでナルシストである、ということだけだった。 文字で表現されているのは、いつだってわたしの美しさや尊さだった。でもそれは、あくまで表面的なものに過ぎなかった。 彼は自分に靡かないわたしを「美しくも残酷な女神」に仕立て上げ、その「女神」に恋焦がれる自分を「盲目の恋をする愚かな男」と位置付けた。 彼は、盲目の恋こそ美しいと考えていた。それはもはや信仰のレベルで、彼にとって盲目でない恋は汚らわしいものだった。 わた

          『薔薇の花束』#05

          『薔薇の花束』#04

          後日、彼からまた誘いが来た。「文豪をテーマにしたバーに行きませんか」と。 あんなことしておいて、当たり前のように次の約束をしてこようとするなんて、と思ったが、わたしは彼にきちんと返事をしていなかったことに気づいた。 「返事を書くから、それまで待って」 そう言ってわたしは、問題を先送りにした。 彼から渡されたノートには、まだまだ空白のページが残されていた。手紙には、交換ノートみたいに、お互いの詩や文章で埋めていきたいと書かれていた。わたしが文章を書くのが好きだということ

          『薔薇の花束』#04

          『薔薇の花束』#03

          渡されたノートには、わたしを想う気持ちがつらつらと綴られていた。と言っても読んだのは帰ってからで、その場では「後で読むね」と言って鞄にしまった。 そうしたらちょうどカレーが来た。お腹が減っていたわたしはとにかくカレーを頬張った。目の前の男のことを少しでも忘れたかった。 彼のスプーンを握る手は震えていて、一応緊張していたらしいことが分かった。じゃあこんなことしなきゃいいのに、と思ってしまった。 彼は食事の仕方があまりきれいではない。音は立てるし、ご飯粒を残す。猫背で犬食い

          『薔薇の花束』#03