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言いたい事が何もないことが言いたい

『ディストラクション・ベイビーズ』を観る。
こんなに純粋な暴力を観たのは初めてかもしれない。柳楽優弥くん演じる18歳の主人公(そういえば名前がはっきり出てこない)が、通りすがりの人々にケンカを売りまくる108分間。どうしてこいつは喧嘩するのか考え、過去や心情の描写がないか見守っていたが、まったくといっていいほど心の中が描かれなかった。なのに、始まりから終わりまで目が離せなかったのは、彼にはケンカを通して言いたい事が何もないからだと思う。

柳楽くん演じる主人公には、暴力とは無縁の高校生の弟がいるのだけど。
弟の友達はケンカをしすぎて通り魔になった柳楽くんがニュースになったのをネットで呟き友達間で噂話を花を咲かせてからかうところが、柳楽くんの側と対極にある描き方をしていた。最初は、暴力に明け暮れてネットで騒がれてるほうが、彼岸の側にあるように感じていたのだけど、ネットで騒ぐだけで何もせず、他人の暴力を我がもののように感じて息をまいている側のほうが彼岸にあるような気がした。
そしてラストシーンを迎えるころには、純粋な暴力をすっかり肯定しているのだ。

「楽しければええけ。おまえもそうやろ?」

柳楽くんが呟く数少ないセリフに、想像力が刺激された。

#映画 #映画批評 #柳楽優弥 #菅田将暉 #ディストラクションベイビーズ #日記 #エッセイ

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