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フロ読 vol.16 鈴木一雄 校訂 『狭衣物語』(下) 新潮日本古典集成

電車の中で『源氏物語』を読んだので、何となくフロは『狭衣物語』かな…と。
 
一般に平安後期の物語は『源氏物語』の影響が大ということだが、読後感が残ったまま『狭衣物語』を生で味わうと、それはもう影響とかのレベルではないことがよく分かる。
 
巻三は、主人公の狭衣大将が高野山にいるところから始まるが、『源氏物語』の須磨の気配が早くも濃厚。夢こそ見ないが、飛鳥井の姫君は危篤になるし、親は待っているしで結局山を下りる。まるで朱雀院失明により帰京を果たす光源氏と同じあらすじだよね。
 
帰京の途で大将が思い出すのは源氏の宮。大将にとっては従妹でありながら手の届かぬ恋しい人…藤壺に六条御息所と紫の上の要素をちょいプラスみたいな存在。彼女が賀茂斎院に成っているのも、藤壺出家を想起させる。
 
  ありなしの魂の行方にまどはさで 夢にも告げよありし幻
 
…そうね。『源氏物語』ならお父さん(桐壺帝)が夢の中に出てきて教えてくれたものね。
 
で、源氏の宮のことはさっぱり不明なまま、女二の宮との間にもうけた若宮が気になる狭衣の大将。多情多恨。ちょっと気が散り過ぎだよ…。女二の宮は出家、子どもを残して…それって『源氏物語』でいう女三の宮と薫だよね。
 
いや、わずか数頁なれどお見事な換骨奪胎。げに模倣は編集の基本なり。
 
ここまでのあらすじを『源氏物語』同人誌テイストでまとめると、須磨から兄(朱雀帝)の病を懸念しつつ光源氏が帰ってくると、藤壺と女三の宮が一気に出家していて、いてくれたのは幼子の薫だけだった…。う~ん、すごいパロディ。『源氏物語』のプロットがレゴブロックみたいに分解再編集されている。
 
昔は平安王朝物語なんて似たり寄ったりでダルいと思ったものだが、まず、『源氏物語』はやはり偉大。模倣されたからというよりも、模倣・加工後も素材の味がしっかり活きている。
 
そして『狭衣物語』もやはりすごい。読者だったら、推し作品の解体再編集、やりたいよね。『好色一代男』を読んだときも思ったけど、ただストーリーを追うだけではなく、『源氏物語』のスピンオフとか、時代を変えて実写映画版みたいな楽しみ方を、当時の人も楽しんでいたのだろう。
 
日本古典に興味のある方は、やはり『源氏物語』のご一読をお薦めします。この一作で他の作品も輝きを増すこと疑いなしです。よろしければフロの外で『源氏物語』、湯舟で平安後期王朝物語というコンビで愛おしむと、「ユーリカ!」とか叫びながら、裸で『源氏物語』のところまで走り出しちゃうかも知れませんゾ。

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