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フロ読 vol.27 石原道博編訳 『旧唐書倭国日本伝・宋史日本伝・元史日本伝』 岩波文庫

ちょっと調べものがあって『宋史』日本伝に当たってみた。そのままフロに持ち込んで好き放題読む。
 
雍煕元年に日本国の僧奝然が朝貢し、中国側の聴取に応じたという。

奝然隷書を善くすれども、華言に通ぜず。その風土を問えば、ただ書し以て対へて云ふ。
 奝然善隷書而不通華言問其風土但書以対云

中国語は話せず、書が出来るだけの僧。それに対して筆談していくのだけでも大変な手間であろうに、聞き取った歴代天皇の名を次つぎと記していく。
 
国土や産物などは中国にとっても国益になるだろうから、細かく記すのも頷けるが、明らかに発展途上国と思われる国の歴史を、よくも詳細に書き綴ってくれたものだ。日本に、というより、歴史そのものに対する畏敬の念と解すればよいか。
 
岩波文庫の日本伝には、原文(影印)が入っている。原書の丁寧な字は誤字でさえもその懸命さを伝えてくる。(×封上天皇→〇村上天皇 ×騰元→〇藤原 など、なかなか可愛い)また、日本には犀と象が多いなど、どこと間違えたのかなという記事も微笑ましいが、それを越えて、記録を残してくれてありがたいという感謝の念と、現今の手間の数十倍であろうという手間を惜しまない迫力に畏怖すら抱いた。
 
結果と効率しか考えない世の中では成し得ないダイナミズム。気づくと湯舟の中で正座。こういう丁寧な仕事は、煩わしいようでいてその実、どこか人間の幸せを孕んでいる。日々こんな仕事を心がけたい。

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