イノベーションはどのように起こるのか   ー マット・リドレー「人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する」より

本書はイノベーションを語るうえで重要な書籍であると思う。
ここでイノベーションの定義まで振り返ることはしないが、私自身、「イノベーションは何らかの課題を解決したい人の努力の量に対し確率的に起こる」と考えている。
偶然が支配しているので、いっぱい実験をしなくてはならない。

本書はその文脈に近い。例えば、エジソンが白熱電球を発明するために、6000種類のフィラメントの材料を実験している。
もう一つ、フィラメントが光ることを発見したのはエジソンではない。もともとのアイデアを発見した人を特定するのは難しらしい。ただし、そのアイデアをエジソンは知っている。

イノベーションに興味ある人は本書を読む前に、同じ著者の『繁栄ー明日を切り拓くための人類10万年史』を読んでほしい。
『繁栄』では、人類が豊かになったのは、人が交換できること、そしてそのことで役割の分担ができることが述べられている。つまりすでに実現されたモノ(アイデアが形になったもの)や、まだ実現されていないアイデアを交換できることが重要であると書かれている。その蓄積が現在の人類の姿である。

本書では、『繁栄』の内容をさらに発展させている。中でも偶然や試行錯誤、またアイデアとアイデアの結合の重要性について触れている。
わかりやすいのはライト兄弟の飛行機。確かに最初に飛行に成功したのはライト兄弟であるが、飛行機はゼロからライト兄弟が発明したものではなく、様々な技術の結合であり(そのためにたくさんの手紙をやりとりした)、かつ、たくさんの試行錯誤の結果であるとのこと。もちろんライト兄弟は英雄となったが、他にその時代にあるアイデアを結合する人がいればライト兄弟がいなくとも飛行機は発明できた可能性があるとのこと。

以上の文脈からすると、イノベーションを起こすためには、
①アイデアのネットワークを作る、
②アイデアの試行錯誤を行う
ということが仮説として導出できる。
シュンペーターの新結合が具体化されいている。

企業IT動向の調査に加わって思うのだが、企業は新しい技術の調査や検証が不足しているのではないかと考える。実際、調査結果でも技術の検証を重要と考える企業は少ない。
「PoCばかりやっている」と非難されることもあるが、偶然を獲得するためにはとにかくPoC数を増やすべき。

ちなみに、本書では、実験を行わず発展しないものとして原子力発電所を挙げている。原子力発電所の稼働に実験を組み入れること危険だが、複雑なシステムをすべて計画的に実現することは難しい。
情報システムもしかり。
企業はDXに取り組むという話をするなら、計画的なITの活用ではなく、計画的な実験のプロセスを作るべきだ。

参考文献:
マット・リドレー(2013)『繁栄ー明日を切り拓くための人類10万年史』早川書房.
マット・リドレー(2021)『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』NewsPicksパブリッシング .

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