向 正道

IT・情報システム・経営に関する研究者、実務家(コンサル、人事)、大学教員、リサーチャ…

向 正道

IT・情報システム・経営に関する研究者、実務家(コンサル、人事)、大学教員、リサーチャー。 時にシリアスなマラソン、トレイルランを楽しむ。

最近の記事

リスキリングはバズワードで終わるのか?

もうビジネスキーワードから人気が落ちてきただろうか、リスキリング。Google Trendsで調べると、国もリスキリングをDXの文脈で奨励していたこともあり、2023年1月に大きなピークがある。その後停滞気味だが、リスキリングをバズワードと切り捨てるのはまだ早いかと。 企業内では、リスキリングか、スキルアップかで、言葉の定義で混乱することはあるが、基本的に成長分野に人材を再配置したいということなのだろう。国レベルでも、企業レベルでも、より生産性や市場の拡大する領域に人材を「

    • 仕事におけるニッパチの法則

      20:80の法則は皆さん知っての通り。パレートの法則とも呼ばれています。 よく知られている例では、売上の80%は20%の商品から、売上の80%は20%の顧客からとか。 仕事でも、経験的に認識されている人も多いと思いますが、   仕事の80%は20%の社員が行っている というのがあります。 なぜ、仕事においてもこのようになるのでしょうか? 20%の社員は優秀な方だからでしょうか? 以前、一緒に働いていた営業の方からこんなことを聞いたことがあります。 アリは、巣社会の中で働い

      • 全体最適には「全体」の定義が必要

        ビジネスもそうだが、情報システムの仕事をしていると  〇 全体最適  × 部分最適 という意見をよくいただく。 果たしてこれは本当なのだろうか?といつも疑問に思う。 というのも、全体最適には多くのデメリットがある。 ・全体最適に至るには、複雑な現状を理解する必要がありとても時間がかかる(複雑さを回避するために全体最適という言葉が出てくることも) ・全体最適に至るには、ブラックボックスを含め明らかにしなくてはならないことが多い ・そもそも、事業単位の強みを取り込むべきなのか、

        • 転換プロセスとしてのDX

          DXを組織の変革のモデルであるダイナミックケイパビリティ概念から読み解いてみたい。本概念を組み合わせると、DXは何かある特別な能力で示されるのではなく、複数の能力がつながった「一連のプロセス」であるという見方ができる。 ダイナミックケイパビリティのエッセンスを説明すると、変化を「察知(sensing)」し、機会に「反応/取り込み(seizing)」、ビジネスモデルやビジネスシステムを「再構築(reconfiguring)」する3つの能力からなると言われている(Teece, 

        リスキリングはバズワードで終わるのか?

          DXとは「何」だったのか?

          DX(海外では英語のままDTと呼ぶ)とは結局「何」だったのか? すでに過去形で表しているが、最近よく参照されるレビュー論文があるので、簡単に内容を触れておきたい。「レビュー論文」とあるとおり、あるテーマに沿って複数のアカデミックペーパー(学会誌)でどのような内容が取り上げられてきたかを、著者の視点でまとめた論文である。 まず、それぞれの論文のDTの定義について20ほど示されているが、今回は省略する。各研究者は、自身の研究テーマに沿って定義を行っていると考えてもらってよい。

          DXとは「何」だったのか?

          イノベーションはユーザーが起こす(最終) ― ITが普及する要因

          今回、前回までの議論の結論に至ろうと思う。 これまでの議論を振り返ると、ユーザー自身がイノベーションを起こすのは、ユーザーが情報の粘着性の高い情報を持ち、メーカーに伝達できないから。これは、ITの導入についても言え、業務面、技術面、導入方法面に粘着性の高い情報が存在する可能性がある。 IT導入にかかわる分析のフレームワークを示すと下図のようになる。 IT利用者(ユーザー)においては、例えば業務の課題が、導入に関わる者においては、導入の方法論が、IT製品ベンダーにおいては製

          イノベーションはユーザーが起こす(最終) ― ITが普及する要因

          イノベーションはユーザーが起こす③ ― IT導入における情報の粘着性とは?

          前々回、ユーザー自体がイノベーションの担い手となる可能性があることを述べ、前回、ユーザーがイノベーションを起こすことを説明する概念として「情報の粘着性」を紹介した。 今回、国内企業を対象としてITの導入における「情報の粘着性」とは何かを説明する。 まず、国内企業においてITの導入に関わるプレーヤーとして大きく三者に分類できる。 ①ITを提供する者:機器だけでなく、ソフトウェアパッケージ、サービスを提供する企業 ②ITを導入、もしくは情報システムとして構築する者:IT部門技術

          イノベーションはユーザーが起こす③ ― IT導入における情報の粘着性とは?

          イノベーションはユーザーが起こす② ― 情報の粘着性概念

          前回の、「社会的発見を通じて、既存のものを組み合わせユーザーがイノベーションを起こす時がある」ことを述べたが、ユーザー・イノベーション研究の重要な概念に「情報の粘着性」がある(Hippel,2006; 小川,2007)。 「情報の粘着性」とは、「局所的に生成される情報をその場所から移転するのにどれだけコストがかかるか」を表現する言葉である。例えば、情報が形式知化されていなかったり、利用するための基礎知識が必要だったり、膨大な情報量だったりすると情報を移転することが難しくなる

          イノベーションはユーザーが起こす② ― 情報の粘着性概念

          イノベーションはユーザーが起こす① ― ユーザー・イノベーションについて

          イノベーションが技術の革新だけではないことは多くの方が知ることだと思う。そして「新結合」という概念で示されるように、既存の技術の組み合わせで革新的な製品だけでなく取り組み(ビジネスモデル)が生まれることがある。 つまり、学術的な発見を純粋にこれまで知られてこなかった現象の知覚としたときに、イノベーションはそれら発見を組み合わせてこれまでになかった価値を作り出す社会な現象の発見とみなすこともできる。 そう考えた時に、イノベーションは広く社会的に開かれている。最近、週の半分を

          イノベーションはユーザーが起こす① ― ユーザー・イノベーションについて

          ITによってどのように企業の競争力は形成されるのか? ― 情報システムによるビジネスプロセスの「高密度化」

          ちょうど3年前(2018年8月)に「セブン-イレブンとヤマト運輸のIT戦略分析―業界リーダーが持続的競争力をつくるメカニズム」という書籍を中央経済社から出版する機会をいただいた。博士論文を書籍にしたものなので、決してわかりやすい書籍ではないが、事例企業の情報システム史を丁寧に記述したもので、一部の方でだと思いますが、ご評価いただけているのかなと考えている。 せっかくなので、本書を執筆したときのことを振り返り、簡潔に内容をまとめてみたい。 本書は、セブン-イレブン、ヤマト運輸

          ITによってどのように企業の競争力は形成されるのか? ― 情報システムによるビジネスプロセスの「高密度化」

          イノベーションはどのように起こるのか   ー マット・リドレー「人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する」より

          本書はイノベーションを語るうえで重要な書籍であると思う。 ここでイノベーションの定義まで振り返ることはしないが、私自身、「イノベーションは何らかの課題を解決したい人の努力の量に対し確率的に起こる」と考えている。 偶然が支配しているので、いっぱい実験をしなくてはならない。 本書はその文脈に近い。例えば、エジソンが白熱電球を発明するために、6000種類のフィラメントの材料を実験している。 もう一つ、フィラメントが光ることを発見したのはエジソンではない。もともとのアイデアを発見し

          イノベーションはどのように起こるのか   ー マット・リドレー「人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する」より

          「わかる」資料とは

          長くコンサルタントをやっていると、説明した内容について「わからない」と言われることが何度か。その時はなぜなんだろうと考えじぶんなりに資料の工夫してきた経験があります。 最近、ある方に「わかる資料」の助言をしたときに、なんとなく発見があったようなので、自分なりの4つの考慮点について。 1.言葉がわからない ITや技術に関わる方は、これが問題だと思われるケースが多いように思う。英語の短縮文字も多いので。 言葉の問題もそうですが、相手に基礎的知識がないと伝わらないことも多い。また

          「わかる」資料とは

          情報システムの上流の設計はどう進めるの?

          技術者の育成関係の仕事をしていると、「上流工程で、業務要件にそってうまく情報システムの機能を設計できないんだよね」と相談されることがある。 コンパクトに、私なりの情報システムの基本設計相当の上流設計プロセスを言語化してみたい。 まず、「情報システムの設計できた」という状態(ゴール)を設定することが重要だろう。 私の考えでは、次の2点が満たされていることである。 ① 情報システム投資にかかわる目的が業務プロセス上、システム機能上、達成されている(もしくは達成できそう) ② 必

          情報システムの上流の設計はどう進めるの?

          DXでは「D」が重要なのか?「X」が重要なのか?

          「DXはXを重視すべき。Dはツールでしかない」という発言をよく耳にする。果たしてそうなのだろうか? おそらく「X」を重視する方たちは、成果を求めているのではないかと思う。 ただ、世の中の変化やイノベーションを起こすのは技術である。なので、決して「D」を軽視してはいけない。「D」は「X」のための機会をもたらすからである。 つまり、より多くの「D」を評価して、自社にあう「X」を創発すべきではないか?経営課題から入るアプローチではどうしても限界が見え視野が狭くなるリスクを負う。

          DXでは「D」が重要なのか?「X」が重要なのか?

          アフターミドルの仕事の充実は?

          少し前の資料になるが、RMSがアフターミドルの調査を行っている(2021年5月公開)。自分の周辺の方はアフターミドル(ここでは近々55歳以上)の方が多いが、入社当時と同じぐらい不安感を抱いている方も多いと思う。気づきのある資料なので自身の感想をシェアしておきたい。 具体的な資料の説明は省略するが、本資料を読んでの理解は、アフターミドルが充実できるパターンは社内での自由度をうまく利用して、これまで勤めた企業でやらなければと考えていたことがやれることだろうか。 これは、(理屈的

          アフターミドルの仕事の充実は?

          アンラーニングと「三人寄れば文殊の知恵」

          イノベーションにおいてアンラーニングは重要であると以前から言われてきた。ただ、これまでの成功体験を棄ててと言っても、過去の成功体験を簡単に捨てることができるわけではない。 本日(2021年6月)、組織学会で中竹竜二氏(現日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、コーチのコーチ)の講演が非常に良かった、また、自分のマインドセットと共通するところがあったので、アンラーニングについてメモしておきたい。 私なりの中村氏の主張の解釈は以下の通り。 ・重鎮、指導者は自信や成功

          アンラーニングと「三人寄れば文殊の知恵」