ずっと恋愛をしていないと、生きていけない人間だった。
誰かを好きで、誰かを口説いていなければ、苦しいと思うほどに、恋愛脳だった。
古典的なキザなことをするのが、楽しい。
私に少しでも心絆されてくれたら、嬉しい。
かっこいいと色めいた視線を貰えたら、心地よい。
誰かより魅力的に見えたら、勝ちだなんてそんな風に思っていた。
だからそのためにかっこよく見えるであろう格好をしたりだとか、自分がされたら嬉しいであろう行動をした。
相手を傷つけられるほど、絶世の美男美女でも、器用な人間でも、優れた人間でもなかったから、
結果として、誰かに表面的な好意をもらうくらいで、熱を上げて追われるなんてこともなかったし、相手がこちらに夢中になって病んでしまう悲しい結末ももちろんなかった。
だから、ただ
ナルシズムに満ちた、一人の女が、なんかカッコつけながら、時たま、プレゼントをあげたり、素敵だね！と伝えるだけ。
好きだと告白して付き合えたり、付き合えなかったり、そんな日々だった。
そんなことが当たり前で、いつまでも変わらずだと思っていた。
倫理観はあるので、不倫だとか浮気だとか一線を逸することはなくとも、人に好きになってもらいたいという気持ちは常にあったから。
なのに急にふとその感情が消えた。
突然のことだ。
人に好かれたいとか、魅力的に思われたいって気持ちが、引き潮みたいにさーっと遠のいたのだ。
正直、自身で何が起きたのかと、わからないくらい未知のことだ。
恋愛を強要する人間も、童貞であるだと処女であるだとか、恋人がいないだとか、それを揶揄する人間、劣っているとのたまう人間は反吐が出るほど嫌いだが、
恋愛の良さ、というか恋愛の楽しさは否定する気は毛頭なく、
寧ろ恋愛が載っている書物は好ましく、
自身の身においては、恋愛はあることは、素晴らしいと思っていた。
それなのに、今はいらないとまで思っている。
急な変化に頭を捻る。
そして一つ合点がいく。
自分で自分を満たせるようになった。
誰かに愛を囁いてもらわなくても、私は私自身素晴らしいと肯定できるようになった。
誰かの言葉を、暗がりを灯す明かりのように頼らずとも、よくなった。
それに気付くと私にとっての恋愛はなんて愚かで、人頼りで、搾取的であったのだろう。
私はこの変化をポジティブに捉えているし、寧ろ以前の自分を恥じ猛省している。
しかし、この状況を側から見て、戦線離脱したとか、諦めたと表現する人もいるだろう。
直接的におばさんと揶揄するものもいるだろう。
それでも私はなんて美しく、かっこよく、優しくなったんだと自分に拍手をしたいし、
自分が自分らしくある姿形になる努力、他者の客観的評価、自己を埋めるために自分が一番マシに見える姿に擬態するのでなく、自分がしたい姿で、自分を満たしたいと思える凄さに、武者震いさえしている。
年を経てもちろん、心の機微が鈍化したことも一因ではあるが、内面を向上することに注力したのも、大きい。
何でもいいから、自分自身納得できるものを持つことの強さを実感している。
こんなに軽やかで晴れやかな気持ちは、私史上初だ。
他者が決めた符号に寄せる必要はない。
それがこれから先に、諦めたから→頼れるおばさんみたいなカテゴライズを与えられても、全うする必要なんて一切ないのだ。
肩書きのない一人の人間、自分の良心と善悪を基準に飄々と、葦のように凪いでいよう。