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【宗教2世支援者養成講座06】傾聴のトレーニングをしよう 〜真実はいつも2つ〜


 真実はいつもひとつ!

というのは、おなじみ名探偵コナンくんのセリフですね。でも、のっけから否定しますが、すこし「間違って」います。

 それとは別に、真実は「人の数だけある」みたいなことも一般的に言われます。むしろこちらのほうが正しく、誰しもが「自分の視点」でしか物事を捉えることができないの可能性が高いです。

 ですから、「被害者」「加害者」「第三者」の目線は常に異なり、それぞれが見聞きした「真実」も異なるのが普通です。

 宗教2世支援者には、この「複数の視点」が求められます。しかし、気をつけてほしいのは、以前にもお話したように「裁判官・ジャッジメントする人」になってはいけないので、「判決を下すために被害者・加害者双方の言い分を聴く」ということとは、まったく違う点です。


 伴走者として支援を行う時は、兎にも角にも「傾聴」から始まります。支援対象者の思っていること、感じていることを、「共感的理解」を持って、聴く、知る、感じ取ることが大切です。

 けれど、それとは別に「その裏に隠されている、もう一つの真実がないか」ということを、頭の中で考えておく必要があります。

 傾聴して、共感して、相手の言い分に飲み込まれただけでは、「ミイラ取りがミイラになる」みたいなことが起きてしまいますよね?

 ですから、技術としての傾聴は大切ですが、同時に観察者としての視点も、忘れてはいけません。対象者自身と、その周囲で何が起きているのかを、整理してゆく必要もあるからです。


 次のポイントを、公式として覚えておきましょう。

■ 相手の「感情」を共感して聴く、

■ 「状況」を客観的に観察する。

の二つです。感情と、状況はかならず別のものです。

 大声で泣いているほうが、被害者とは限りません。加害者だからこそ、わめいていることだってあります。

 しかし、その人の感情は、激しく乱れています。何かの理由によって。


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 傾聴そのものは「技術」です。


■ 受容的傾聴
■ 反映的傾聴
■ 積極的傾聴


といった3種類が示されることがありますが、平たく言えば


■ 相手の話を頷き、否定せず、真正面から、関心を持って聴く
■ 相手のことばを繰り返したり、言い換えや要約を交えながら理解しようとする姿勢を示す
■ 相手の発言にことばを添えたり、質問を加えながら思考を促してゆく


という感じです。

 この技術を知らなかったり、意識していない人は、相談者や支援対象者のことばを、つい「早い段階で遮ってしまったり」「自分の解釈で受け止めてしまい、ズレが生じたり」します。

 より具体的な方法や、テクニックとしての技法について関心がある場合は、心理学やカウンセリング系の書籍・サイトなどに情報がありますので、ご参照ください。


 さて、宗教2世支援における「傾聴」には、留意点がいくつかあります。もちろん、カウンセリングにおける傾聴と、ベースは同じなので、心理系に通じている方であれば、ある程度はすでに実践できると思いますが、特に宗教2世支援の伴走者として、まだまだ不慣れな方に向けて、少しポイントをまとめてみましょう。


<相手の感情を受け止める 〜つらかったことだけではない〜>

 ほとんどの場合、宗教2世の当事者(支援対象者)は「過去の宗教環境下において、つらかったこと」について語りだします。

 もちろん、「私は支援者です」とこちらが名乗って、自動的になんでも話してくれるわけではありませんから、相手が自分の過去や感情について、話してもいいな、と安心できる環境、雰囲気、姿勢を持つことは、大切です。

 さて、当然対象者が語る内容は「つらい話」が中心になるとします。支援者は共感的理解を持って傾聴しますから、当然その人の「つらい気持ち」に寄り添いながら、話を聴くことになるでしょう。

 この時、対象者を取り巻く環境、物語の状況は「対象者が何らかの力、圧力、強制を受けてつらかった」というストーリーを描き出します。

 ところが、物事はそう単純ではなく、全体的には「つらい」物語なのだけれど、その背景に「それでも父や母を愛したり、慕う気持ち」があったり、「教団や教義に親しみを持つ気持ち」があったり、「教団内の人間関係に依存したり、好意を持っている気持ち」があったりもするのです。

 最初に「真実はいつも2つ」と書きましたが、「つらい」という物語の中に、それとは反対のストーリーや、感情が、同時に存在しているということを念頭においてほしいのです。

 宗教2世支援の場合は、「宗教環境下の影響」「親子関係」「教義に基づく幸福概念や倫理観」などが常に、相反したものを含有しながら進みます。

 共感的に、受容的に対象者の話を「受け止める」ことは、最初こそとてもシンプルなのですが、どんどん「最初のつらさとはアンビバレントな感情」が対象者に沸き起こってきたりもします。

 それも含めて全部「まるごと共感する」ということができないと、「つらかった部分だけをこちらが認識して、その気持ちだけに寄り添う」と、後から対象者の言い出す内容が「え?さっき言ってたのと真逆の気持ちじゃん!」となってしまうことが多々あるのです。

 このあたりは、「そういうものであり、それも含めて全部を理解する、全体として捉える。矛盾ある存在であることも受け止める」ということを事前に知っておくほうがよいでしょう。


<敵は本能寺に、、、、、あり?>

 人間というものは、対象者はもちろんのこと、支援者もわかりやすい構図を望みますし、それに引っ張られてしまいます。

 宗教2世支援においては、「つらかった当事者」に対して、それを生み出した「元凶」であったり、取り除くべき「敵」のようなものをついつい想定してしまいがちなのですが、少なくとも初期の段階でそうしたイメージを持つことは大変危険です。

 対象者自身が、「何が問題の根源で、何が敵であるのか」ということを、そもそも理解しておらず、受け止めてもいない、ということもありますし、状況としてひどい場合には「対象者自身に、何か課題がある」ということも考えられます。

 しかし、なんども繰り返しますが、それを「ジャッジメント」するのが支援者の任務ではありません。たとえ問題がある対象者であっても、その人が自分の人生に何らかの軌道修正なり、調整ができて、幸せになってゆけるのであればそれでいいのですから、支援者は「指導者や批判者になる必要はない」のです。

 もちろん、最後まで対象者の支援者であり続ける必要もない場合があります。対象者の人生のいっときにおいて、わずかな支援ができた、というだけで、十分大きな仕事を果たせたということも有り得るのです。


 さて、敵として想定されるものは

■ 教団、教義、宗教そのもの
■ 親自身、あるいはその性格性質
■ 経済的環境や、周囲の状況
■ 対象者である自分自身

などがあります。

 これらのうち「対象者は、当初どれかを敵と認定してストーリーを語る」ということをしがちです。そして、支援が進むにつれて「敵認定の対象が変わる」ということも多々あります。

 当然、これに連動して「支援者が、対象者の認定する敵が”敵”であると思い込んだり、誤認する」ということもあります。そして、「後になって、当初は敵と認定された相手が、どんぶり返される」ということもあります。

 支援の段階で、時には「対象者によって、支援者が敵認定されてしまう」ということも起きます。

 それは、対象者が自身を取り巻く状況を整理したり、受け止めるプロセスにおいて、混乱や不安をあなたにぶつけることも起きがちだからです。

 カウンセラーや教師など、お金をもらって支援業務を行っているプロであれば、そうしたことが起きてもそれは「仕事として想定内」ですが、善意の支援者は、対象者から敵認定された場合、まず支援者自身の心身が疲弊します。

 すっかり意気消沈して、支援をやめてしまったり、支援活動そのものから離れようと思うかもしれません。

 ですので、今回の記事のように、かなり早い段階で、そうしたことが起きるよ、ということは、示しておきました。

 特にあなたが「無償の、善意による伴走者」である場合には、対象者に対して「どこまで関わるか」「どこまで親切にするか」の自分なりの枠組みと言うか、線引きをイメージしておくのもよいでしょう。

 キツイことを言うようですが、自分のふだんの生活や、自分の心身の領域を超えてまで、誰かの支援をする必要はありません。


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 とまあ、今回についてはかなりツッコんだ話もしました。シンプルな傾聴の話から、「複数ある真実」に、対象者も支援者も、戸惑いがちな点まで説明しました。

 ただ、支援者伴走者として、「一般論として親切にする」「相手にそっと寄り添う」「積極的に支援・介入しない」というレベルであれば、あなたがつらい状況に陥ることは、少ないかもしれません。

 もちろん、対象者から見れば、あなたは「依存する相手としてロックオンされる」こともありますから、一定の領域を超えて対象者があなたの心身の領域に侵入してくることもあり得ます。

 そうしたことも想定しながら、あなたなりの「支援とはなにか」について、いったんここで整理するのもよいでしょう。

 自分にできることは「このラインまでだ」という感覚を意識することも良いと思います。それはプロであっても、持っている絶対線です。

(それを見失うと「共依存」という地獄へ進むこともあるからです)


(つづく)



 




 


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