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液体日記 11月21日 訳もなく孤独.com

「で、それなんなの??"訳もなく孤独.com"って」
5杯目のウーロンハイをもう少しで飲みほそうとしながら私は前にいる亡霊みたいな男に言った。
この男は途中うたた寝もしているらしいが前日からずっと飲み続けていて飲酒のバイオリズムの波を幾度も乗り越えて、また最高潮の波が今まさにやって来ているらしい。
「"訳もなく孤独.net"でもいいけど」
当たり前のように、したり顔で彼が言う。
「そういう事じゃないでしょ、でそれで何をするの?」
「お前、わかんないの?言葉通りじゃん、ばかなの?」
「はっ?だから〜、ムカつくな〜。何?結局あんたが寂しいって事でしょ」
ウーロンハイをもう一つ頼んだ後、私がそう言いながら彼を見ると大粒の涙が……全然!全く出ていなくて、くしゃ叔父さんよりも拳骨のように顔をくしゃっとさせて、居酒屋中の人が見返るほど大きな声で笑いはじめたのだった。
「ちょっと、やめてよ、また迷惑かけちゃうじゃん」
それでなくても、週に何度もくるこの店で度々の失態を重ねて迷惑がられている客なのだ。やっと最近、信用が上がってきたように感じていたので、また居づらくなるのはご免被りたい。そんなに気を使うのもどうかと思うが、自分が慣れた店にしか行きたくない性格なのだ。
「しかも、訳もなく孤独じゃないじゃん、あんた。めちゃめちゃ訳ありなんですけど……」
少しイラつきながら私が言った。この男は恋人にフラれたばかりで荒れてる時期だった。ここんとこ寂しくなると私に連絡をしてきて、こうやって飲んでいる。
「お前、本当にばかだな。そんなの当たり前だよ。そうじゃなくて、いや、そうだから人の痛みに初めて気がついたの。俺みたいに寂しい人に向けてね、ビジネスをするのはどうか?って思った訳」
もっともらしく彼が言ったところで、後ろにそびえ立っているこの店のボスのマダムが般若の様な表情で私たちを見ているのに気がついた。まずい、機嫌が悪い。
もう少し小声で話してと彼に伝えると、にっこりしてまたクシャ伯父さんになっていた。
「はぁ、ビジネスですか……。で、どういうやつなの?」
「寂しい人を集めて、誕生会をしたり、どっか行ったりするんだよ、あれだよ、お前、これで沢山寂しい人集めてお前の店に行ったらお前の店、どっと混む」
「えっ、やだ〜、そんなの。入っただけで孤独が倍増しそう」
最後のオヤジギャグはスルーして私は言った。
「だって、寂しくないじゃん」
不貞腐れて彼がそう言うと、いつもの様にフラれた相手の名前を叫び号泣しはじめてしまった。ボスマダムの目が光っている。
「もうやめてよ〜、また迷惑かかっちゃうじゃん」
私は言いながら「訳もなく孤独.com」は随分前から存在していて私も既にそのメンバーなのかもと思っていた。


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