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液体日記 12月2日 父の涙

今日お風呂何回入ったんだろ。3回だ。入りすぎですよね…  寒いのがすごく苦手。雨の日に寒くて、靴が濡れてる状態が一番ドヨーンする時かも。北海道がルーツかと思うと、信じられないな。北海道は小さい頃、お母さんの家出に連れ添って行ったことがあるのと、10代の時にCDを出して営業で行った2回しかない。
小さい時の思い出は、飛行機でもらった飛行機のおもちゃが嬉しかったのと、後は全てが雪で白かった思い出。真っ白。10代の時は自分的にすごい事が起こった。

札幌から電車で何十分かかけて、レコード屋さんでの営業だった。
やっと辿り着いたレコード屋さんの壁には「櫻田宗久がやってくる!」と書かれた自分のポスターが貼ってあった。マネージャーさんと一緒に顔を見合わせる。店内にはお客さんがポツリポツリといたけれど私のことを知らないお客さんだけだった。仰々しいポスターの謳い文句に申し訳ない気持ちとやるせない気持ちになりながら、レコード屋さんに顔を覚えてもらうのが大事だからと言われて気を取り直してイベントは始まった。殆ど聞いてくれる人は居らず、通りすがりにちらっと足を止める感じだった。自分の曲をかけながら自己紹介みたいな感じをしてCDを買ってくれる人に握手とポラロイド(当時はチェキはなかった)を撮影するみたいな流れ。買ってくれる人はもちろんいなかったんだけど、そのうち小さい子供が私に寄ってきて「この人誰ー?」と言ってきた。あはは〜なんて笑顔でごまかしていたのものの、容赦ない子供は近くにあったボールペンを持ち出して私をつつき始めるのだった。子供は無視をする私に対抗してより大きく私にボールペンを刺し続ける。
うんこみたいな感じ?だんだん、虚ろになっていった。

何してるんだろ、北海道まで来て、子供にばい菌みたいに刺されながら、笑っちゃう、絵に描いたようなドサ回り。テレビで演歌歌手の人がよく言ってたな〜。別に悲しくない。だって仕事だし。早く帰りたい。北海道は故郷だった。私が生まれていない、故郷。小さいときに来た以来の北海道。お母さんが家出して一緒に。白い風景。今は現実に戻って、私は子供にボールペンで刺されながら作り笑顔で対応している。いつも喧嘩をしていた両親。お母さんが家出をするのが恐怖だった。もう帰ってこないのだと思うと悲しくなって涙が止まらなくなった。

いろんなことが頭に回って、いつの間にかイベントは終わっていた。レコード屋の店員さんは謝っていた。自分が人気がないだけだから、謝られることではなかった。マネージャーさんと無言で駅まで向かい、電車に乗って札幌まで。

あったかいものでも食べようと二人でご飯を食べていたら、急に涙が止まらなくなった。さっきの事が悲しかったのではなかったはずだった。子供のしている事だし、変な格好で歌って踊っているのだから、物珍しく映るだろう。うんこみたいに扱われるのなんて平気だった。ずっとそうだった気もした。
涙で朦朧としながらある映像が私の頭の中で上映され始めた。
小さい時にあった出来事だ。今までずっと忘れていた。その映像は止まらなかった。

父親が車の中で泣いている。謝っているのだろうか。
さっき、山道を通っていたと思ったら崖の淵で車が止まった。後少しで車は崖の下に落ちてしまう所で私は大きな声を出した。暫くゆらゆら揺れて車は後ろに引き下がった。恐怖で私はパニックを起こし、そのまま記憶から抹消してしまった。
引き下がり、荒れた山道に止まった車の中で父親が泣きつづけているのを私は見ていた。

あの時、父親は私と一緒に死のうとしていたことをやっと思い出したのだった。

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