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「アクロバティックサラサラ」の転回/オカルト探偵・吉田悠軌の”女が怖い”

一度聞いたら忘れられない「アクロバティックサラサラ」という奇妙な名前。人気マンガにも登場するそれなりの知名度を持ったキャラクターだが、オカルト探偵はその造形、キャラづけの過程に現代怪談の重要なポイントを見出した。

文=吉田悠軌 挿絵=森口裕二

その名も不思議な怪女の噂

 2019年2月17日、ムー編集部の主催により、下北沢B&Bにて、とあるイベントが行われた。
 黒史郎『妖怪補遺々々』刊行記念「ムー的・怪異蒐集の世界」だ。登壇者は黒氏と、私・吉田。この対談に私が持ち込んだお題は「牛の首」と「赤い女」で、両テーマとも黒氏から興味深い指摘をいただいた。特に「赤い女」の下半身欠損と、沖縄の豚小マジムンとの関連についての示唆は興味深かった。これについては、後から個人的にも調べているので、本連載で発表する機会があるかもしれない。

 さて、このような「赤い女」談義があったためだろう。イベント終了後に、とある女性客から次のような報告を受けたのである。
「アクロバティックサラサラ、知ってますよね?」
 その名前には聞き覚えがあった。2008年9月22日、2ちゃんねる(当時)オカルト板「ヤヴァイ奴に遭遇したかもしれん」スレッドにて、多数の目撃者から報告があいついだ怪人である。

アクロバティックサラサラ情報が相次いで報告された、2ちゃんねる(当時)オカルト板「ヤヴァイ奴に遭遇したかもしれん」スレッド。

 異常なまでに長身の女で、目深にかぶった赤い帽子から長い黒髪がたれており、まとっているのも真っ赤な洋服。その瞳は白目がないほどまっ黒で、牙のはえた口は大きく、左腕にはリストカットらしき無数の切り傷跡。福島県のおそらく郡山地方に出没し、ふいに壁の向こうや屋根の上などに現れる。関わり合いになると危険らしく、凄い力でひっぱられて事故にあわされたり、どこかにさらわれたりもする。

 最初に指摘しておくと、これら数々の目撃情報は実話というより、投稿者たちによるグループ創作といった印象が強い。

 まずスレ主「1」により、女のイラストがアップされたことにより、基本的なビジュアルの共有がなされた。

後にインターネットにアップされた「女」のイラスト。オリジナルは削除されており、これは当時のスレッドを見た人々による再現である。アクロバティックサラサラの特徴である帽子と黒髪がこの時点で確認できる。

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