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ラグビー部の保護者への説得 (釜石までの道〜2011年から2020年まで③)

釜石で中学ラグビー部の合宿をやろう。

釜石シーウェイブスの増田久士さんとそんなことになり、
増田さんは釜石サイドのたてつけ、
わたしは青山学院中等部ラグビー部に話をしにいった。

保護者への説得

まずコンタクトをとったのは、青学OBでパパ友でもある酒井直人さんだった。
酒井さんは青学界隈、日本ラグビー協会界隈でも有力者なので、
まずは釜石の現状を報告し、
釜石で合宿をするメリットとデメリットをしゃべった。
<メリット>
・中学生が自分の目で見て、手で触って、足で歩いておくべき現状である
・シーウェイブスのグラウンドは被災してなく、天然芝の具合もいい
・夏も涼しく、例年合宿をしている菅平と変わらない
<デメリット>
・ショックが大きいかもしれない
・余震が続いていて危険
・釜石は遠い

などなど。
酒井さんを通してラグビー部の先生、コーチ、中等部の校長、
いろんな関係者に企画を提案し、説明し、説得を試みた。

釜石での準備

一方、釜石では増田さんが、
青学中等部単独ではなく、
東京からもうひとチーム、釜石では岩手県選抜チーム、滝沢南中学校の2チームを招いて、
「復興祈念中学生ラグビー大会」と銘打って、
4チームではあるがラグビーの大会を開くことにしてくれた。
1チームが来て合宿をするより、
大会を開いてやったほうがワイワイするしワクワクするし、
そっちのほうが見ている釜石市民が元気になる、だろう。

釜石市民が元気になる。
それがわたしのやりたいことだった。

釜石のために役に立ちたい。
わたしのモチベーションだった。

なぜ青山学院中等部なのか

東京では、中等部の教室で保護者会を開いた。
ここでも、釜石の現状、釜石で合宿をすることのメリットデメリットをしゃべり、
デメリットを克服するために、
・事前の学習
・保護者とメーリングリストをつくり、つねにコミュニケーションをとる
・衛星電話などの自前の通信手段を確保する
などを提案した。

危険の回避にはいくつもプランをつくったが、
一番大変だったのは、
「岩手は放射能の濃度が高い」
という誤解を解くことだった。

福島第一原子力発電所の事故で、
福島県双葉郡では人が住めなくなった。
福島産の野菜や魚は食べてはいけない、という風評が立った。

しかし、事故地あたりに滞っている放射線が風に乗って動くとすれば、
それは南に向かっていくことになり、
岩手よりむしろ東京のほうが危険な状態になっていた。

という知識とか理解のレベルよりもおそらく、
福島と岩手の位置関係がわかっていないんだろう。
そしてそれも知識とか理解のレベルよりもおそらく、
無関心であるということなんだろう。

3月11日から4月になり5月になり、
6月になろうとしている。
東京ではすでに、3.11以前の日常の生活に戻っている。

被災から3ヶ月たって、東北は早くも忘れられようとしている。

そうならないためにも、中学生が自分の目で見て、触って、歩いて、
体験をしないといけないのだ。

という理屈で説得をした。
が、最後に高い高いハードルが残っている。

体験すること、ボランティアすること、ラグビーすることはいい。
釜石市民に元気になってもらうことはとてもいい。
そのために役に立つこともすばらしくいい。

でもなぜそれを、青山学院中等部がやらなければいけないのか。
ほかの中学校が釜石を元気にすることもできるじゃないか。
わたしたちがリスクを取らなければならない理由は何か。

その難問に対する答えは、すでに用意してあった。