種子島


二、三年前か。インスタか何かのメッセージで「いま種子島が大変なことになってて、種子島の近くに馬毛島という小さな島があってそこに自衛隊の基地ができる、そこで米軍との合同の訓練なんかをやる、賛成反対で島の人たちが割れている」と聞いた。

種子島には南種子町と中種子町の二つの町と西之表市という一つの市があって、二つの町は基地に賛成の町長が選ばれ、西之表市という唯一の市は前回の選挙でギリギリの差で基地反対の市長が選ばれたらしい。その西之表市で基地の反対をしてる女性から連絡があって"島でライブをやってほしい"と言われた。おれは基地賛成の集会を盛り上げるのはコメディの役割とは違うと思っててそんな事を伝えると彼女から「賛成とか反対じゃなくて。みんなで笑ったり、考えたり感じたり、心が震える時間を共有したいのが一番の目的です」と返信が来た。

島民の中でも、自衛隊の基地ができたら、米軍との合同の訓練なんかもあるから、米軍や自衛隊の人たちがたくさん種子島に来る、その島に基地を作る工事の人たちもたくさん島に来る。そうなれば島の治安が悪くなるかも知れない、戦闘機の轟音が鳴り響く島になるかもしれない、もし戦争になったときに、基地があるということで一番最初に、狙われるかも知らないと不安になってる人たち。それとは逆に、国が決めたことに逆らっても勝てない、どうせたくさん人が来るなら、ホテルや飲食店に、お金もたくさん落ちるだろうし、うまく利用して、島を経済的に豊かにしよう」と言う人たち、彼らでバチバチだと話を聞いた。俺みたいな仕事をしてると特別扱いをしてくれることが多い。前日に「馬毛島いきます?漁師さんが連れてってくれるらしいです」と言われてその船に乗って島に行くことにした。その漁師さんたちに話を聞くと、種子島から馬毛島に作業員の人たちを送れば往復10万円ですよ、これが10年らしいですから」と彼はおれに話してくれた。目を輝かせながら。最後に「馬毛島に運んだことがバレたら仕事もらえなくなるから写真はアップしないでほしい」と言われた。島に向かう途中の船、途中、海の風の強さで彼の声が聞こえなくり、彼はマスクを外しておれに話しかけた。その彼の口には歯が数本しかなかった。しばらくしてその基地の島は見えた。揺れる船の中で俺をこの島に呼んでくれた彼女は僕にこう言った「村本さん、あんな島、沈めばいいのに」って。おれは「なんで?」て聞いたら「あの島がなかったらこんな争いなんてなかった」と。僕は言った。あの島があるから、あの漁師の彼の歯が入るんじゃない?」って。

僕はその夜、種子島の人たちに基地の話を尋ねまわった。島の居酒屋の大将は言った。「うちは客商売、みんなに好かれないといけない、基地反対賛成の意見を言ったら考えが違うお客さんに「あぁあの店はそっちか」と思われるかもしれない、基地反対も賛成もみんな気持ちよく飲んでほしい、だから自分の考えを表明できないのがもどかしい」ある人は「基地ができると、そこで働く人たちが島にたくさんきてくれる、お金を落としてくれる、お金ができると子供達をいい学校に行かせられる、子供達のことを思えば基地ができると嬉しい、でも基地ができることで、米兵の人とか自衛隊の人たちとか、作業員の人たちがたくさんこの島に来て治安が悪くなる不安がある、だから同じように子供たちのことを考えると不安になる、だからどちらもわかる、もどかしい」と。

女性は言った、戦闘機の轟音で牛がストレスを感じて、牛の乳が出なくなると言われてる。それで生計を立ててるから、不安だと。

俺をこの島に呼んでくれた彼女は移住者だ、基地に反対すると島の人に「お前ら移住者だろ?君ができたらでていくんだろ?おれたちはずっとここに住んでるんだよ」と言われるらしい。でも違う島の人たちからは、私たちは昔からの近所どうし、仕事のつながりがあっていいたいことを言えない、代わりに言ってれてありがとうとも言われると。

基地ができる馬毛島に俺を送ってくれた漁師さんの馬毛島の話をする時、目がキラキラしてた。「何百万円ともらえるんです」って。漁船で人を運ぶだけで何万円ももらえたら、大変な思いをして魚をとるよりも簡単に大金をもらえる。日本の多くの人たちに感じる、金のために働くんではなく、好きなことをしたら大金が入ってくる、金は後がいい。金がもらえるからその仕事をするという価値観が日本に蔓延してるせいで、金目当てなんて言葉が飛び出る。あの原発、基地反対してる人たちは金もらってる、とか。それは金優先でやりたいことのない、日本という国を表す言葉だろう。金は後だ、まずはやりたいことだ、これが当たり前で健康的でとても普通の世界。迷子の大人を作らない世界。俺を種子島に呼んでくれた彼女の家の大家さんは基地に賛成してる人らしい。彼女は基地に反対する人。彼女が馬毛島の基地反対の運動をこれ以上やると出て行ってくれと言われたらしい。でも彼女はやることにしたらしい。誰かにとっては悪夢の島、誰かにとっては夢の島。そこには防衛名のため、とか、そんな言葉は一切なかった。あの当時、僕はライブを終え、海に行った。ビール飲みながら海に飛び込んだ。10月も後半だったのに海の中はとても暖かくて、夕焼けが落ちていく空を見ながら、俺を呼んでくれた彼女が言った。「村本さん、あの島が沈んでくれって言ったこと、撤回します」て。基地のおかげで生活が少しでも豊かになる人たちのことを思ったんだろうか、自分の言葉が強すぎたと思ったんだろうか。いつも大きな力は、迷わず、行使してくる。いつも迷って心を削るのは誰かを気遣う優しい人たち。

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