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桜井晴也の「愛について僕たちが知らないすべてのこと」について

桜井晴也の「愛について僕たちが知らない全てのこと」を読んだ。出版社から単行本として出版されたのではなく、著者のブログで発表されていた。

正直なことを申すと、この作品の発表の場が書籍や文芸雑誌ではなく、個人のブログであることが個人的に非常に残念だ。もちろん、出版というものは商売だ。難解で読みづらいこの小説を販売したとしても間違いなく売れないだろう。だけど、1人くらいはこの小説に心を動かされて、この小説を世に出すのが俺の役目だと使命感に燃える編集者が1人くらいてほしい。

ただ、小説を読むということが好きな人でも、この小説を読み終えることの出来る人はほとんどいないだろう。読みやすさや分かりやすさなどを越えたところにある小説は、もう不要とされているという実感がある。

恐らくこの小説の読者のほとんどは、周囲にこの小説の話が出来る人がいないに違いない。そして、この小説の話を切実に自分以外の誰かとしたいと願っていることだろう。この作品はそういう種類の作品だ。

以下、内容を紹介する。

靴子、花びら、譲、隆春の4人の男女は学校の教室にて待ち合わせをする。そこへ4人の兵士が乱入して隆春を射殺する。隆春の死体は兵士に解体され食べられてしまう。残った3人を助けに世界中から子供たちがやってくるが、兵士たちに全員殺されてしまう。

ざっくりとあらすじをまとめると、そういう話だ。また、登場人物によって語られる物語があり、それらもかなりの尺を取っているが、全てを挙げると長くなってしまうので割愛する。そうした物語は、登場人物のバックホーンを語っているものがあるが、それが真実なのかはよくわからない書き方をされている。再読を繰り返せば、抜け落とした細かい描写を拾えて考察できるかもしれないが、現時点では材料が揃っていないのでなんとも言えない。

最後のシーンは、兵士の1人が花びらに卵を与えるというものだ。1人で全部食べろと忠告する兵士の言葉を聞かずに、花びらは白身だけを食べて残った黄身を靴子に分け与える。このシーンが何を象徴しているのかはよくわからない。だが、作品のタイトルが「愛について僕たちが知らないすべてのこと」なので、ここに作者の重大な意図があるのではないかと思った。花びらが兵士の忠告を無視したことや花びらが譲には分け与えないで靴子に黄身を差し出したことだけではなく、靴子がそれを食べる際にその感触に吐き気を覚えたこと、靴子が黄身を食べ終わると「おいしい」と言いながら花びらがいままで見たなかでいちばんかわいいと思える女の子の笑顔を浮かべたことなども重要なポイントになる気がする。

1回読んだだけではまだ理解できないことが多かったので、時間を開けて再び読んでみようと思う。



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