現代詩「フライパンに捨てられる」

フライパンを捨てる
お前を
実家のフライパンを捨てても捨てても
戻ってくる台所に
母が
捨てた筈のフライパンを拾って来てしまう

フッ素加工が剥げた鉄製のフライパンは重くてそのくせすぐ焦げる
にんじんにころもをつけて
揚げ焼こうと思ったら焦熱地獄
黒鉄に張り付いたまま焦げていくにんじんたち悲鳴をあげている
フライ返しも歯が立たず僕はにんじんを助けられない
だから僕はフライパンを
お前を
捨てるのだ

仕事を辞めますと10年一緒に働いてきた同胞が
引き止める事もかなわず
たいしょくとどけをさしだした
このなつのあつさものりこえて
季節は秋となり
いくばくの余裕がでてきたじゃないか
君は去るのか
きみが
いなくなったらこのかいしゃは
消滅するよ
それでも君は去るのか
僕を
捨てるのか

いつも灰色の空をした地方都市が秋だけは青い空をする
雲形十種の秋の雲はミロの描くサアカスに似る
季節の中で秋だけは
この町も都会の風景に勝る

なんとなれば
僕は実家からフライパンを連れ出して車のトランクに放り込む
金属ゴミの収集は第ニ月曜日
に僕は鷹揚にフライパンを捨てるのだ
フッ素加工ガ取レチャッタンデネ
仕方ナイナイ
と御近所様に嘯くのだ
お前を捨てる引け目を隠して
鷹揚に
振る舞うのだ
そう思いながら僕の車のトランクに
フライパンが未だある

役にも立たぬ黒鉄の
フライパンと旅する秋の空
役にも立たぬこの僕の
いっそxxxxしてくれ
xxxx、焦熱地獄
フッ素加工が剥がれて僕は
焼け焦げて
捨てることの能動と受動

あばよ
元気でな

君もね

僕たちはお別れだ
秋の空は
切ないものだよ
不意に別れは訪れる

季節はこんなにも美しいのにね



(現代詩「フライパンに捨てられる」村崎カイロ)

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