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現代詩「はる、」と写真と眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第35集のテーマはラジオ


現代詩「はる、」詩三篇

「桜並木の国道は」

白塗りの鉄柵が
朽ちて
梁を落として
抜けたり
かたくい
になったりして

それはこの街の年齢そのもので
上向きに伸びた人生が
くだっていくことの折り返し、だ
街のインフラの綻びは

燻んだ白の鉄柵のうへに
燻んだ白の桜の花が
ぽつりと咲いた

昨日は終日雨で
風も強くて
人々は家に籠って過ごしたが
その春嵐の中にひとつの花が咲いたのだ

川辺の風景を裁断するような黒い枝には
花開きたくて我慢しきれぬ
蕾たちが並んでおる
ひび割れた蕾から覗く赤身が
催淫を堪えられぬ
春は狂つております

この街から選出された衆議院議員が
建設大臣になった事を記念して
国道沿いには5キロも続く桜並木が植樹されたのは遥か昔

そうした活況もいまは幻となって
この街は朽ちていく
桜が咲いて 散ることで
歳をかぞへて

生まれるものと
しぬるものの うつろひで
歳をかぞへて

修繕されぬ鉄柵の数で
歳をかぞへて

かぞへながらほろびていく街と
桜と
磨り潰されるわたしたち



「鳩が来るから」

春の、うらうらした光景を見ながら
わたくしはお煎餅を食べている
お煎餅が食べたくて仕方ない、のだ
お煎餅を食べると
ほろほろと
砕けた屑が零れ落ちる
(黒ズボンに零れた屑は深海のマリンスノウのやうだ、沈んでいくわたくしと、お煎餅と、扁形のいきものたち)

其れを啄みに
鳩が、
やってきてしまう
鳩は怖い
群れるし
変な声で鳴くから
鳩が来ぬよう生きてきたのに
これでは
鳩が来てしまう
それ乍ら
春の陽気で煎餅を摘む手が止まらぬ
咀嚼が、止まらぬ
雑嚢された割れ煎餅は
せうゆ、しお、ざらめ、とうみつ、あげ、あぶら、ごま
止まらぬ 止まらぬ
春が止まらぬ

ラジオが正午をお知らせしても
(わたくしの夢想と扁形のいきものたちが海底に着床しても)
春は止まない


「NEMURU」

雑事を忘れて眠ってしまった
今朝は隣近所の人たちとゴミの立ち当番に出なければならなかったのに
猫のように眠い
春のように眠い
煩わしい事の数々を
忘れたいから眠って
忘れた事を思い出したくないからまた眠る
電話が鳴っているけれど
眠いから出ない
どうせ仕事の電話だらう

桜は咲いたか
菜の花咲いたか
土潤って春気は湧いたか
土から出てきたチビ蛇はチビ蛙を餌食したか
たぬきは山から降りてきたかしら
里山の芋でも掘って農夫に追いかけられているだろうか
子狸たちが穴蔵で母狸の帰りを待っているだろうか

春だね
たぬきのように
眠る 眠る
電話には出ない
出たら母狸が山に帰れないから

(現代詩「はる、」村崎カイロ)

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【紫PURPLE】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第34集 解題と読者アンケート|ムラサキ

5キロ続く国道の桜並木の写真。