俳句日記「コートを脱ぐ」
似合わないコートを脱いで街角に立つ
未だ冬だと思ってコートを持ってきたが、どうやら今日は肌寒い春だ。コートが強張って重たいので脱いだ。
取引先の方と待ち合わせがあるのだが、初対面なので会える自信がない。
携帯電話の番号を交換もしていないし、相手の本日の服装も知らない。
本当に会えるだろうか。
色淡し 心細きに寄り添う春は
会えた。意外となんとかなるものだ。
車を出して会社まで移動。
会話が弾まない。
適当な世間話。そして沈黙。
話題を風景に頼ろうとしたが、霞んで見えない。
沈黙を破るものなし春霞
会話することは諦める。
無言のまま車は走った。
春塵 改めて名刺交換
会社に着いて打ち合わせが始まる。
途端に眠い。
ディスクロージャー開きて春眠深し山蛙
小一時間かけて打ち合わせ終了。
再び客人を駅に送る。
なんのかのと人と出会うことは楽しい。
帰り道は一人。
最初に脱いだコートが助手席にある。
我一人 外套一つ 車中にて
(俳句日記「コートを脱ぐ」村崎懐炉)