現代詩「F値」

僕の
5群6枚の
ガラスレンズを覆う黒羽根
を 開くと視界は漸次に
明るくなるのだ

被写界深度が浅くなり
焦点の範囲は狭まって

光学

眼球(ピント)をオートマチックに合焦して
汚物と雑味はボケで隠して

露光量を保ちつつ
可能な限りの
シャッタースピードで
(僕の)瞬間 を切り取る
のだ

乾いた機械の作動音
瞼を閉じて開くように
網膜に図像を結べ

僕の人生はそうやって切り取られた
断片的な記憶(フォトグラフ)から為っていて
視覚情報の前後関係は
失くしてしまった

記憶が無いので
紫色の「或る日の花」と
数日後に撮影された同じ花の
差異から僕の時間軸は推量されるのだ

紫の花の
傷が増えたね
とか
色褪せたね
とか
萎れたね
とか

花弁が落ちて日ごとやつれて
みすぼらしくなっていく花が
ある日
結実して種子を孕む
のだ

ねえ紫の花よ
僕の人生のフォトジェニックを
輝かせて

暗かった日々は露出補正
色褪せた生活を色調補正
記憶を覆うケラレに愛を
コントラストは控えめに
角度調整と
数パーセントの拡大処理

平らかになりゆく感情線(ヒストグラム)
人生の大半を占める
(僕の)薄汚さ を補整して

完成した「或る日の光画」
輝いている
きらきらと
きれいだ
きれいだ
本当の人生よりずっと

光学

光り輝く人生
人生は光とともに在る

(現代詩「F値」村崎カイロ)

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#究極超人あーるの諸もろのカメラ用語が今になって分かる