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映画「Mr.タスク」レビュー「ロクデナシしか登場しない掘り出し物。」

僕が学生の頃はネットなど存在しておらず神田神保町界隈の
中古ビデオ屋のワゴン売りで「掘り出し物」のVHSビデオを
「発掘」するしかなかったが現代ではネットという味方があり
家に居ながらにして「掘り出し物」のBDやDVDを
簡単に探すことができる。
便利な世の中になったものだ。
本商品はアマゾンで定価の77パーセントOFFで投げ売りされていたのを
発見し,こうして保護した次第である。

米国ロサンゼルスでネットラジオを運営する
ウォレス(ジャスティン・ロング)とテディ(ジョエル・オスメント)の
ふたりはオモシロ投稿動画を紹介し
ゲラゲラ嘲笑い特に面白い投稿動画に関しては
直接投稿者の元に赴きアポなし突撃取材を敢行している。
ふたりにとっての「オモシロ動画」とは例えば
映画「キル・ビル」の真似をして刀を振り回し
勢い余って自分の脚を切断した少年が投稿した動画であり
正直な話お世辞にも「いい趣味」とは言い難い。

ウォレスの恋人アリー(ジェネシス・ロドリゲス)は
ベッドの上で彼にこう囁く。
「昔のアナタはこんなじゃなかった」「アナタは変わった」と。
「変わった」からこそネットラジオが盛り上がったんじゃないかと
ウォレスは反論する。
アリーは沈黙し静かに涙を流す。

件のキル・ビル少年にアポなし突撃取材を敢行するため
単身カナダに赴いたウォレスであったが
2日前に少年は刀で自殺しており彼の家では葬式が行われていた。
「何で取材前に死ぬんだよ!」「取材後に死ねよ!」と毒づくウォレス。
今更「手ぶら」では帰れないウォレスであったが
トイレに貼ってあるチラシが彼の目に留まる。
それはハワード・ハウ(マイケル・バークス)なる人物が書いたもので
自分の波乱に満ちた人生を誰かに聴いて貰いたいと記されている。
一も二もなく飛び付いたウォレスは
一人暮らしの老人ハワードの家を訪問する。
ハワードから振舞われた紅茶を飲みながらウォレスは取材を開始する。
ハワードの話は大変刺激的であり
「金の鉱脈」を掘り当てたぞと喜ぶウォレス。
だがしかし急速に睡魔が襲い昏倒するウォレス。

どの程度の時間が過ぎたのだろう…。
ウォレスが目覚めると彼は車椅子に座っていた。
ハワードはウォレスが毒蜘蛛に咬まれ昏倒したという。
更にハワードは医師を呼びつけ
ウォレスの為に必要と思われる「処置」を施したという。
「処置」…ウォレスの心に急速に不安が広がる。
何故自分は車椅子に座っているのか…ウォレスが
足にかけられた毛布を持ち上げると足が片方切断され無くなっている!
件のキル・ビル少年のように!
因果!応報!!
ウォレスは激しい混乱が襲うのを感じながら,とにかく知り合いや病院に
自分の身に起こった状況を連絡したいとハワードに訴えたところ、
スマホも携帯も家中の電話も医師が没収したという。
この段になってようやくウォレスはハワードが口から出まかせを言っており足を切断したのは彼であると確信するに至る。
ハワードに罵詈雑言を投げつけるウォレス。
ハワードは態度を急変させ
車椅子に体を固定され身動きの取れないウォレスの頬を音高く叩く。
一体ハワードが何を目論んでいるのか…。
その計画の全貌をウォレスは未だ知る由もないのだった…。

自分の肉体に望まぬ「改造手術」を受けさせられ人間性を喪失する…。
僕が本作品を視聴して真っ先に念頭に浮かんだのが
ショッカーに拉致監禁され改造手術を受け本来ならば
このまま「怪奇バッタ男」となるところを脳の改造手術の直前に脱出し
改造人間でありながら人の心を「人間性」を失わなかった
「仮面ライダー」本郷猛のことだった。
ウォレスは「改造手術」のあと
ハワードから「調教」され次第に人間性を失ってゆく。
しかしながらウォレスはキル・ビル少年の動画を嘲笑い
少年が自殺したことを知り毒づいた時点で既に人間性を大部分喪失しており人間性を大部分喪失している人間が更に人間性を喪失したに過ぎない。
既にウォレスは人間性を全喪失した
「ショッカー怪人」と化してしまったのだろうか?
かつてウォレスに対し「アナタは変わった」と指摘した恋人アリーが
更に変わり果てた姿と化した「元ウォレス」と再会し涙を流す。
アリーはこう言う。
「涙が流せるのは「心」がある証拠」「「心」があるのは人間だけ」と。
何という不遜な発言だろう。
アリーは自分が立ち去った後,「元ウォレス」が涙を流したことを
知らないからこんな酷いことが言えるんだ。

大体!アリーはテディと寝ていて,
テディとふたりで「元ウォレス」と再会してるのだ。

「元ウォレス」は人間なのか
それとも単なる「ショッカー怪人」なのかは非常に判定が難しい。

本作品のエンドロールの「仕掛け」は、
あたかも「他人の不幸は蜜の味」こそが
人間の「本性」であるかのように思える実に意地の悪い構造となっている。

僕は本作品を仏教的な見地から他者の不幸を指さして嘲笑う人間は
それに見合ったバチが当たり畜生界に落とされるという
説話性,寓意性がふんだんに盛り込まれた絵解き映画と受け取った。
僕はそうした「説話的映画」「寓意的映画」が大好物なので
何ら躊躇なく5つ星評価を進呈する次第である。

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