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ジョージ・A・ロメロ監督の映画「マーティン 呪われた吸血少年」レビュー「超低予算との戦い」。

ジョン・カーペンター監督の映画「要塞警察」(1976年)の
BDの特典映像の中に熱心なファンと監督との間で次のような問答がある。
ファンのひとりから
「「要塞警察」はジョージ・A・ロメロ監督の
映画「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968年)の影響を
感じさせます。この点について監督の御意見をお伺いしたいのです。」
と問われたカーペンター監督は
「低予算映画を制作する上で
「ナイト~」の影響を受けない人はいないよ。」
と回答しされいる。
実際IMDbによると「ナイト~」の制作費は114,000ドルで
米国における総興行収益は実に30,000,000ドルを叩き出していて
低予算しか工面できない映画監督に「一獲千金の夢」を見せたと言える。

ロメロ監督の「ザ・クレイジーズ」(1973年)は制作費275,000ドルに対して
米国における総興行収益は150,000ドルと低迷したが
欧州では高い評価を得ている。

それから4年が経過し本作品の制作が決まったものの
制作費が80,000ドルしか工面できず
これは低予算映画の「お手本」となった「ナイト~」よりも制作費が少なく尚且つ「ナイト~」から9年の歳月が経過しその分物価が上がっている。
一体どうすればいいのだ。
どうもこうもヘッタクレもない。
スタッフと役者を可能な限り兼任させ
主要登場人物の数を可能な限り削減する他はない。
監督・脚本・編集担当のG.A.ロメロは作中ハワード神父役を兼任
プロデューサーのリチャード.P.ルビンスタインはリチャード役を兼任
特殊メイク担当のトム・サヴィーニはアーサー役を兼任
音楽担当はリチャード.P.ルビンスタインの
実弟ドナルド・ルビンスタインを配置
クーダの孫娘役は後に「ゾンビ」(1978年)で
キャスティング・ディレクター兼,第2班メイク助手兼,テレビ局員役を演じ,
更には後のロメロ夫人となるクリスティーン・フォレストを配置するという後の「ロメロファミリー」の中核をなす面子による
「家内制手工業」の様相を呈することとなった。

こうして苦心惨憺の末,完成した本作品の米国における総興行収益は
100,000ドルと「ザ・クレイジーズ」よりも更に低迷する。
しかしながら本作品の幻想的で芸術的な作風は米国では
正当に評価されなかったが
欧州ではイタリアで編集され音楽がゴブリンのスコアに差し替えられた
「イタリア編集版」が高く評価された。
あああ超観てえ「イタリア編集版」!

参考までに,ふたつの低予算映画を紹介すると
ロメロ監督の映画「悪魔の儀式」(1972年)の制作費は90,000ドル
ジョン・デ・ベロ監督の映画
「アタック・オブ・ザ・キラートマト」(1978年)の制作費は
同じく90,000ドルとなっている。
本作品が低予算映画の「限界」に挑戦していることが分かる。

後年ロメロ監督は本作をゾンビ映画を除けば一番好きだと語っている。
それはその通りだろう。
資金繰りには取り分け苦労させられたけど色々兼任したけれど
「信頼できる仲間」ができたことが何より嬉しかったに違いない。

全くの余談となるが本作品とダリオ・アルジェント監督の
映画「サスペリア」(1977年)には3つの共通点がある。
両者とも1977年公開の映画であること
本作品の「イタリア編集版」と「サスペリア」の音楽担当が
ゴブリンであること,
両作品とも作中ウィリアム・フリードキン監督の
映画「エクソシスト」(1973年)の話題が上がることである。

本邦では2001年に本作品のDVDがリリースされたのを最後に
「音沙汰なし」状態が続いたが
17年後の2018年12月に本作品のBDがリリースされ,
ようやく欲しい人の手に遍く(あまねく)行き渡ったのである。

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