見出し画像

中川信夫監督の映画「地獄」レビュー「前半は「この世の地獄」,後半は「あの世の地獄」が描かれた地獄フルコース映画ですね。」

大学生の清水(天知茂)は恩師の娘・幸子(三ツ矢歌子)と婚約し,
前途洋々の身の上であったが,
悪魔の様な友人・田村(沼田曜一)が運転する車に同乗中に,
極道者を轢き逃げしてしまう。
良心の呵責に耐えかねた清水は幸子に全てを打ち明けて
タクシーで警察に向かう途中,自動車事故で幸子とお腹の子が死亡。
報せを聞いた幸子の母は発狂。
そんな清水のもとに「ハハ キトク スグ カエレ チチ」との電報が届く。
清水の父は介護老人施設「天上園」を運営しているが
運営費をピンハネして実際はタコ部屋。
そこに極道者の情婦と母親が清水を追って来て
吊り橋で揉み合ったはずみで情婦は谷底に転落。
極道者の母親は食べ物に毒を仕込むも
「天上園」の杜撰な管理が祟って食事後入居老人は悉く死に至る…。

本当に酷い酷い酷い映画。

前半で登場人物が全員死ぬ「この世の地獄」を描いておいて,
嵐勘十郎演じる閻魔の裁きを受け,
幸子の腹の赤子以外が全員有罪で全員地獄送り。

後半は「あの世の地獄」が描かれる構成。
後半は仏教の八大地獄を映画化しており
「針の山」「血の池」「賽の河原」等々
幼い頃寝物語に聞かされた地獄の光景を堪能出来る。

配給会社的には
西洋にダンテの「神曲」地獄篇あらば
東洋には仏教の八大地獄ありとの謎の敵愾心を燃やし
「後半」は観光客気分で地獄巡りの旅を観客に堪能させようと
当初は企画していたのだろうが
出来上がった映画は
生きとし生ける者の中で
「無罪」なのは生まれる前の胎児だけという監督の世界観は
「悪いことをすると地獄に落ちて閻魔の裁きを受ける」&
「人間は生まれながらにして罪人である」
という仏教とキリスト教の和洋折衷となっており
どうせなら東西の地獄観のチャンポンにしようと言う
欲張りな日本人の心根を見事に映画化したと言える。

「地獄度」は当然「前半」の方が強烈で
「後半」は最早無国籍のファンタジー映画の様相を呈している。
そりゃあ東西の思想をチャンポンにすれば
無国籍思想になるのは至極当然と言えるのだ。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?