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映画「八つ墓村」レビュー「黄泉からの復讐者」

本作品は昭和13年5月21日,岡山で発生した「津山事件」に霊感を受けた
推理小説作家・横溝正史が執筆した同名原作小説を下敷きに
大胆に再構築した映画である。
舞台は同じだが時代を現代(1977年)としている。
しかし最大の改変点は森美也子と里村典子の役割分担を統合し
典子を登場させなかった点である。
私立探偵 金田一耕介を演じるのは何と渥美清。
個人的には金田一耕介役は古谷一行がはまり役と思っていたので
面喰らった覚えがある。

なれど。

この「個人的な思い」程厄介な感慨はなく
「金田一耕助と言えば石坂浩二一択だろう!?」
と主張される方と戦争となるは必定の感慨なのだ。

僕はTVシリーズで横溝正史諸作品に触れており,
その際の金田一耕助役が古谷一行であった。
映画「犬神家の一族」の金田一耕助役の石坂浩二を
推したい気持ちは分かるが
人はもっと「寛容」であるべきだと思うのだ。

寛容な気持ちで観れば渥美版金田一も何とも味わいがあって
コレはコレで「アリ」だなと今は感じている。

32名の命を奪う「鬼」を山崎努が文字通り鬼気迫る演技で僕を圧倒する。
主人公の寺田辰弥役を萩原健一が演じ
森美也子役を小川眞由美が演じている。

本作品は愛憎の「愛」面が顕現すると
これ以上愛しいひとはいないが
ひとたび「憎」面が顕現すると32名の命を奪った「鬼」よりも百万倍怖い
「鬼」が誕生することを教えてくれている。

恐らく鍾乳洞での荻原を真犯人が執拗に追って来る場面は
古事記に記述のある黄泉比良坂で黄泉の国からから夫イザナギを追って来る
腐り果て死霊と化した妻イザナミの姿がモチーフなのだと思う。

そもそも「八つ墓村」は八人の落武者を隠し財産目当てに
騙し討ちした百姓が8つの供養塔を立てた事が名前の由来となっている。

八人の落武者の無念の霊は決して百姓を許さず,
今回の八つ墓村の連続殺人も死者の怨霊が招いた
「過去からの復讐者」「黄泉からの復讐者」の趣があるのだ。

渥美は真犯人は八人の落武者の頭目の末裔だと明かし,
「こんな話はもう止めましょうや」
と屈託の無い笑顔で笑って映画は閉じる。
この「笑い」は古谷にも石坂にも真似出来ないのだ。

渥美金田一の「良い所」は必要以上の追求をしない所。
先般TV放送されたNHK版の「犬神家の一族」では
吉岡秀隆が金田一耕助役だったが
吉岡は
「必要以上に追究して事件関係者から気違い扱いされる金田一」
を好演している。
コレはコレで素晴らしく
「ベスト金田一」等で優劣を競う無意味さを痛感するのである。


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