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クローネンバーグ監督の映画「ラビッド」ブルーレイレビュー

バイク事故で重傷を負ったローズ(マリリン・チェンバース)が整形外科(その名もケロイドクリニック!)に担ぎ込まれ, 実験段階の放射線を用いた特殊な皮膚移植を行ったところ,脇の下に特殊な腫瘍が出来る。

特殊メイク担当のジョー・ブラスコに言わせると
「脇の下に肛門があって,肛門から先に針の付いたペニスが怒張して飛び出して来る」。
「本当にコレ腫瘍と言えるのか」はさておき,彼女は脇の下の腫瘍の針から人間の血を吸う吸血鬼と化し, 血を吸われた人間は狂犬病の様相を呈して狂暴化し,周囲の人間に噛み付いて感染域をみるみる広めて行く。 彼女が罪の意識ゼロでバンバン血を吸いながらヒッチハイクでカナダの大都市モントリオールへ向かう為, 深刻度が跳ね上がりカナダ政府はモントリオールに戒厳令を敷き感染者を片っ端から射殺し始めるのだった…。

吸血鬼ドラキュラの吸血行為はセックスの隠喩であるが, 女吸血鬼ローズの場合は,より露骨に,より露悪的な表現となっている。
「吸血鬼ハンターD」の菊地秀行氏は「肛門」と呼ばず 「ヴァギナ(女陰)からペニス(男根)が生えている」 と著作「魔界シネマ館」で有体に表現してる。
ドラキュラの吸血行為がセックスの隠喩ならローズの吸血行為は隠喩もヘッタクレもなくモロセックスだと。

クローネンバーグは当初ローズ役にシシー・スぺイセクを考えていたが 製作のジョン・ダニングも製作総指揮のアイヴァン・ライトマンもスぺイセクのテキサス訛りに難色を示し,ポルノ映画「グリーンドア」に出演し,これ迄の清純なイメージを一変させ世間を驚かせたチェンバースに白羽の矢を立てた。

本作の撮影中にスぺイセクは御存知ブライアン・デ・パルマ監督の「キャリー」で主役の座を射止め大ヒットした。
クローネンバーグは心中複雑ながらも「あやかりたいかやつりたい作戦」を採り, 本作中にチェンバースが映画「キャリー」上映中の映画館を通り過ぎ, ポルノ映画上映中の映画館に男の獲物を求めて入場する場面を追加撮影したと語る。

本作の撮影時期はクリスマスシーズンでモントリオールの駅構内で感染者を警官が銃撃した流れ弾に当たり 駅ビルショウウィンドウ内のサンタが撃たれて血だら真っ赤になって死に,警官が 「何てこった…(CHRIST…)」 と呟く場面にクローネンバーグの悪趣味なユーモアが全開となり彼の真骨頂を堪能出来る。

本編の画質は冒頭悪く,正直ウンザリさせられたが徐々に画質は上がって行く。
だが元々のフィルムのピントの悪さは如何ともし難くブルーレイならではのハッキリクッキリを本商品に求めるとガッカリするだろう。
過度な期待は禁物である。

吹替はローズの声の出演が榊原良子さん故,何ら心配なく聞いていられる。 だって主役声だもんね! 吹替は全体の約7割をカバーし被害者が2名端折られ辻褄合わせが行われている。 彼女に血を吸われて伝染する狂犬病に似た疫病が「ラビッド」と呼ばれ,NURSEが看護婦と呼ばれている。
1983年収録の音源故に看護師と呼ぶ風習は未だないのだ。

音声解説はクローネンバーグ自身によるもの。 最初は理性的な語りに教授の講義を受ける学生の心境だったが, 次第に監督の本性と本音が発露する素晴らしい内容。
・電車に乗ると人の耳を噛み切りたくならない?
・チェンバースを出して裸を見せないのは詐欺
・中流階級の平穏を滅茶苦茶にしたい
・サンタを撃つのも楽しい
等々。

特典映像
監督インタビュー(00:20:35)
「シーバース」での試行錯誤を踏まえて本作を製作するに当たっての苦労話が語られている。
女吸血鬼ローズはVAMPIRE(吸血鬼)ではなくPREDETOR(プレデター=肉食獣)として描かれてるのは監督が女性を嫌悪してるからだとか何とか…。
「先を行くもの」は常に誤解を受けると「武器人間」のヴィクター・フランケンシュタイン博士も言ってたけど,けだし名言だね。

インディーズ魂ーアイヴァン・ライトマンー(00:12:29)
製作総指揮のアイヴァン・ライトマンによる思い出話である。
クローネンバーグとは「シーバース」と本作で一緒に仕事をしたが「銀河ヒッチハイクガイド」も一緒する筈がメル・ブルックスが持ち込んだ「ザ・フライ」が大ヒットして「銀河~」の話が頓挫した事を残念がるライトマンの姿が印象的。

メイクの思い出・特殊メイク師ジョー・ブラスコ(00:03:09)
「本作の特撮は俺が一手に引き受けたぜ」って言葉からブラスコが撮影現場の叩き上げの職人であることが伺える。
それにしてもたった3分じゃ彼の自慢垂れを拝聴するには余りにも時間不足である。

シネピックスの傷だらけの遺産(00:15:02)
批評家キアラ・ジャニースと特殊メイク師ジョー・ブラスコによるシネピックスが手掛けた映画の紹介…と言っていいのかな。
本作,「ウィークエンド」,「女囚もの」,ソフトポルノ…知られざるカナダ・インディーズ映画史を堪能出来る。

劇場予告編(00:02:08)
字幕付きの予告編である。

フォトギャラリー(00:04:02)
フォトギャラリーである。
無音なのがチト寂しいね。

日本の広告の 「全米でサスペリアを凌いで驚異の大ヒット!」とか 「カナダのロジャー・コーマン(クローネンバーグの事)」とか「何度でも…ドキ~ンと肝が冷やせます!」とか 兎に角「大ヒット作や大物との比較」と「鵜呑み」と「流用」に終止して「創意」がゼロなのにウンザリするね。

本商品の評価は5つ星。
特にSNSで吹替音源を諦めずに募集して搭載したメーカーの努力には敬意を表したい。

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