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映画「ヤコペッティの大残酷」レビュー「ヴォルテールのカンディードを超大胆に換骨奪胎した自由奔放な映画です。」

本作品は原題を”MONDO CANDIDO”といい,
フランスの啓蒙思想家ヴォルテールが1759年に上梓した
ピカレスク小説「カンディード」を超大胆の換骨奪胎し映画化。
人間の善性を信じる主人公カンディードが従者カカンボと共に
拷問と異端審問が支配する中世欧州,
戦時下のブルガリア,
現代NY,
紛争絶えないイングランド,
女兵士が戦うイスラエル,
等々を時を超えて旅し愛するクネコンダ姫を捜す。

リズ・オルトラーニが奏でる音楽の元,
刹那の美を追究する作風が物語の理路整然さを破壊する。

本作品に起承転結があり理路整然としている功績は
ヴォルテールに与えられるべきであるが
ヤコペッティ監督の功績も勿論評価されなければならない。

「鏡の間」でのカンディード(クリストファー・ブラウン)と
クネコンダ姫(ミシェル・ミラー)との再会場面の演出も幻想的かつ
「燃えよドラゴン」(1973年)のリー(ブルース・リー)と
ミスター・ハン(シー・キエン)の「鏡の間」での決戦における演出を
連想させ大変素晴らしいのだが
リズ・オルトラーニの奏でる詩情溢れる調べにのせた
スローモーションを多用した花畑での銃撃戦はとりわけ素晴らしい。
全ての兵士が花畑に倒れ名もない一兵卒が人生の最期に目撃したものが
名もない花であるという演出は
「カムイ外伝」の「りんどう」の挿話を連想させ
この「絵」のあまりの美しさに思わず目が潤む。

またミシェル・ミラーの輝かんばかりの美しさ,愛らしさ,奔放さも
特筆しておきたい。

本作品は人間が生きるためには他の生命を取り込み不要物は排泄し
生殖行為に励み新しい生命の誕生のためには
戦争・紛争・内戦がもたらす数多くの「死」が不可欠であり
再生と破壊が同時進行する必要があること
矢のように時は過ぎ世代交代しても
若い世代はかつての若い世代と同じことを繰り返し
そしてカンディードの師パングロスの言う通り

「全ての出来事は最善」

であることを我々に教えてくれる。
生命力と生命讃歌に満ち溢れた大傑作映画である。

「何だか近頃元気がないなあ」

と思われている方にお勧めする次第。


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