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「小学館入門百科シリーズ タローマンなんだこれは入門」レビュー「現代の厳重管理された御行儀の良いヒーロー達を全員爆殺する為にタローマンは誕生したッ!(「帰ってくれタローマン」放映に寄せて加筆)」

小学館の「入門百科シリーズ」を購入するのは1973年の「名探偵入門」以来50年ぶりだよ!
と書いて無駄に半世紀以上も生きてる事を突き付けられて本書を読む前から勝手に凹む還暦間近のオイボレである。
つまり本書はおよそ50年前からやって来た刺客なのだ。
「タローマン・クロニクル」が全頁フルカラーで痒い所に手が届く洗練されていて,
無理のない無駄のない率(そつ)のない作りに仕上がった事に藤井亮監督は内心大変な御立腹だった様で(なんでえェェェ?),
本書の後書きに次の様に真情を吐露されている。

「現代のヒーロー達は,しっかりと構築された設定から絶対にレールを外れない様に,公式が常に正しくチェックしてくれます。」
「それはとても有難い事です。」
「でも(それはとても正しいけれど決して)正しくないッ!」
「(僕は)でたらめな公式の(生んだでたらめな)ヒーローがひとりくらい居ても良いのではないかと思います。」
「その(たったひとりの)ヒーローにタローマンがなれたら幸いです。」

この刺々(とげとげ)しい言い方!
つまり監督はタローマンは「でたらめなヒーロー」を指向してるのに
何で設定が無理なく無駄なく率なくまとめられてるんだよと憤っておられるのだ。
この行間から滲み出る「現代の厳重管理された御行儀の良いヒーロー達」への憎悪と怨嗟が監督にタローマンを生み出させたのだ。
「現代の厳重管理された御行儀の良いヒーロー達」を皆殺しにして「たったひとりのヒーロー」となる為にね。

この憎悪と怨嗟は115頁の「タローマンのでたらめ質問室」でも炸裂してます。
Q「タローマンはTVでは喋らないのに何で質問に答えられるんですか?」
A「キミはTVでやってる事が「本当の事」だと思っているのかい?自分の頭で良く考えて真剣に問いかけ続けるんだッ」
僕には回答するタローマンのヘンテコな仮面の下の「人殺しの目」が血走っているのが見えるのだ。
「詰まらねえ事聴くと爆殺すっぞ」って凄み,狂気と殺意が血走った目に迸っている。

本書の体裁は見開き2頁の図鑑集ですが,
「ノストラダムスが予言した1999年7の月に地球を滅ぼす恐怖の大王アンゴルモアの正体はタローマンだった!」とか
「奇獣って喰ったら旨いのか?奇獣食のススメ」とか
ピクミンみてえな色とりどりの「見つめ合う愛」が並ぶ「ここが惑星ゲルダだ!」とか
腐り果てゾンビ化した奇獣が並ぶ「奇獣は死んだらどうなる?」とか
子供に永遠に消えないトラウマを植え付ける気の狂った特集が延々と続き,
稀に「タローマン物語全紹介」とか真面(まとも)な記事を読んで正気を取り戻すという
「お化け屋敷」を地で行く展開なのだ。

「昭和のヒーローの図鑑って勝手に年齢やら学校やら兄弟やらを設定されたりとやりたい放題でしたよねえェェェ?」

と藤井監督は憎悪と怨嗟と狂気に血走った目で不敵に笑う。
そうだなあ…昔のヒーローって
シンナー中毒で脳ミソラリパッパになった怪人の脳と入れ替えられ商店街で暴れたり
地雷で吹っ飛んでバラバラになったり
ノコギリで四肢切断されたり
湖底で座禅組みながら寝たり
鉄拳で怪獣の前歯を折ったり
ロボット同士で文通したりと
滅茶苦茶だったからこそ図鑑も更に滅茶苦茶になったもんなあ。
そんな昭和のでたらめなヒーロー列伝に強制介入するタローマンの図鑑が頭がおかしく気が狂っているのは当然なのであった。

真面な記事の紹介もしますね。
例えば「タローマンの世界で一番の腕力自慢だ~れだ?」とか「タローマンの世界で一番早いのだ~れだ?」
ってお題があるんですが,これって熱心なタローマンファンにとって
「初代ウルトラマンの怪獣で一番重たいのだ~れだ?」と同じくらい常識以前のパッと絵面が浮かぶ程簡単な「愚問」じゃないですか。
前者のお題に関しては1位と2位が腕相撲してる絵が描かれ,
後者のお題に関しては1位を2位が必死に追い,遥か後方を新幹線ひかり号が追う絵が描かれる。
でもね。両お題共に「じゃあ第3位はだ~れだ?」って「捻り」が絵に加筆されてる工夫があるんです。
多分俄かに分からないでしょう?
「絵本」だからといって決して軽んじる事の出来ない「新しい知識」が盛り込まれてるんです。

あとはタローマンや奇獣と
長嶋茂雄的選手との野球対決とか
麻丘めぐみ的歌手とのアイドル対決とか
ユリ・ゲラー的超能力者とのスプーン曲げ対決とか
若年層置いてきぼりのお題が僕の様なオイボレにも優しいのが嬉しいですね。

正直「タローマン・クロニクル」でブームも終焉かなと思っていたのですが藤井監督はまだまだやる気なのが本書から伝わって来る…と感じたのだが…僕の思慮が浅かった事を告白する。

過日8月5日(土)23:00よりNHK総合でタローマンの新発掘映像を特集した「帰ってくれタローマン」が放送され,タローマンは奇獣島で奇獣の鍵を引き抜き,奇獣達と共に海底に没していった。
高津博士の「タローマンはもう戦う事に飽きてしまったのだよ!」との叫びは,そのまま監督の叫びだったのだろう。
ウルトラマンがそうである様に,仮面ライダーがそうである様に,このままさあ生命維持装置を装着させられ「生きる事」を強要される「可哀想なヒーロー」にタローマンはなりたくなかったのだよ。

登場してから1年で我々の前から消えて行ったタローマン。
名残は惜しいけれど,惜しまれて見送られる内が「花」なのだ。
そして花の命は短いのだ。

さようならタローマン。僕達は彼に「(作品の質が落ちてもいいから)もっと遊ぼうよ・続けようよ」と縋って爆殺された奇獣・重工業になってはならないのだ。

Q「貴方は何故帰って来たのですか?」
A「僕は皆にサヨナラを言う為に帰って来たんだ」

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