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横山光輝先生の「マーズ オリジナル版」全3巻レビュー「病膏肓に入る(手の施し様のない病気)」。

僕が所有する書籍で最も高いのは
復刊ドットコムから出た
横山光輝先生の「マーズ オリジナル版」全3巻である。
1冊6,820円(税込)×全3巻=20,460円する。
全く比較対象にならんので
今更単行本や文庫本との値段の比較は行わないが
単行本全5巻分の内容で2万円を超えるのである。

週刊少年チャンピオン連載当時と同じ判型,同じ台詞,同じ編集が売りで
単行本で割愛された扉絵も漏れなく収録。
現在の漫画は扉絵も漏れなく収録するのだろうが昔の漫画は
「続けて読める」事を優先して邪魔な扉絵を取っ払っていたのだ。

僕が本書を購入した理由は
1,文庫本の台詞の改竄に辟易し,もしかして単行本も台詞が
改竄されているのではないか,
雑誌掲載時の台詞はどうなっていたのか…を知りたかったのである。
2.マーズが第4の神体との戦いが佳境に入る場面で
単行本も文庫本も落丁なのではないかと疑う程,時系列が乱れている。
雑誌掲載時はどうだったのか知りたかったのである。
後の防衛庁長官の台詞を聴くと
①第4の神体が地震源を発見・急行する。
②マーズがガイアーに命じて第4の神体を激しく攻撃させる。
③ガイアーの激しい攻撃を受けながら第4の神体が地中に潜る。
④第4の神体が地震源に到達する。
⑤第4の神体の操縦者が地震源で核爆弾を爆発させる。
⑥恐らく核爆発でガイアーの攻撃で破損していた第4の神体が消失。
⑦核爆発によって起きた大地震にマーズが巻き込まれる。
が正しい戦闘の流れと思われるが
単行本では①②③⑦④⑤⑥⑦の順で並び
マーズが地震を察知してから第4の神体の操縦者が核爆弾を爆発させ
マーズが地震に巻き込まれる構成になっていて
因果関係の時系列がおかしいのである。

実際に本書を確認してみると。
①②は単行本と同じ。
雑誌掲載時には第4の神体の操縦者が「よし!突っ込め!!」と叫んで
第4の神体が地表に迫るコマがあった。
僕が第4の神体の操縦者が核爆弾を爆発させたと思ったのは事実誤認で
未だ第4の神体は地表に到達しておらず第4の神体に地中に潜る様指示しただけなのだ。
その後第4の神体が地中に潜っている。(③に相当)
つまり地震源に到達する描写も核爆弾を爆発させる描写も
雑誌掲載時にはなく(④⑤の事実は実際には存在してなかった),
第4の神体が地中に潜って暫くするとマーズが地震の予兆を感じ
間もなく彼が地震に巻き込まれる(⑦)という
①②③⑦の順で事象が発生してたのだ。
そして後日防衛庁長官が地中に潜った第4の神体が核爆弾を爆発させて
地震を誘発させたんだろうと推測する…と繋がって行く。
第4の神体も恐らくその時失われたのだろう(⑥)…。
…は最初から読者(僕)の思い込みの産物という顛末である。
ガイアーのあごのランプも4つ点灯してたしね。

オリジナル版を読むと雑誌掲載時にはあった頁が12頁も割愛されている。
今だったら作家に加筆して貰ってでも編集上の帳尻を合わせて,
作家が描いた内容を1頁たりとも無駄にしない筈である。
扉絵全割愛と言い1970年代は斯様な無法が罷り通っていたんですなあ。
第一!「捨て頁」は捨てない方が断然面白いのである。
一体!何の為に捨てて「面白さ」まで捨てるんだよ!

またこの漫画のチャプター分割は
編集者が単行本化作業の際に行っていた様で
横山先生の玉稿のコマを削って(トリミングして)までして
小見出しを挿入している。
なんでこんな酷い事をするんだ。
一体!創作物を何だと思ってるんだ!

知識が増えると憤りもまた増えるのである。
「元の形」が知りたくて2万円以上払ったけど全然後悔してないよ。
世間ではこの心境を「病膏肓に入る」(手の施し様のない病気)と呼び
家人は道楽と呼ぶ。
世間ではそうまでして真実を知りたがる物好きを
「学者」と呼び,関連書籍が学術書並みに高額となる次第。

家人は
「なんでアンタは「同じもの」を幾つも持ってんの?」
と尋ねるが
「え?そんなの普通じゃね?」
と返事する僕を家人は「可哀想な人を見る目」で見詰めるのだ。

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