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ルチオ・フルチ監督の「墓地裏の家」4Kリマスター版レビュー「ふたつの間違い」。

ゾンビ映画評論家にして「ゾンビ映画大事典」の著者でもある伊東美和氏は
本作品に関して,ふたつの間違いをおかしている。
ひとつ目の間違いは本作品を「ゾンビ映画」であると分類してる点である。
本作品にはゾンビが唯の1体も出てこない。

19世紀において「不滅の肉体」を追究し神をも畏れぬ,その研究題材に
学会から追放されたフロイトシュタイン博士が自らの肉体を実験台にして
「不滅の肉体」を求めて
今日(1981年)に到るまで連綿と研究を続けているのだ。
フロイトシュタイン博士はゾンビではなく今も生きているのである。
だのに本作品のデジタルリマスター版DVDの謳い文句は「ゾンビ博士」…。

何処に目を付けとるんじゃあ!
博士は死んでねえよ!
生きながら体が腐ってるだけ!

フロイトシュタイン一族には
「肉体の不滅」を提唱するフロイトシュタイン博士と
「霊魂の不滅」を提唱するフロイトシュタイン博士の妻メアリーの
ふたつの学派があり,現在もなおふたつの学派が統合される気配はない。

ともあれ本作品にはロメロ監督が提唱するゾンビも
ブードゥ教における使役としてのゾンビも
何らかの疾病等でゾンビ化する人間も登場しないのだ。

ふたつ目の間違いは本作品からフルチ監督の凋落が始まったとする
「ゾンビ映画大事典」の指摘である。

本作品は「墓地裏の家」に引っ越そうとするのを
「あの家には行くな!」と警告するボブ少年にだけ見える謎の少女,
家の地下から子供の泣き声と獣のような唸り声と靴音,
衣擦れの音が聞こえる。
この家の地下には得体のしれない「何か」がいる。
その恐怖を描いた
ステーヴン・キングの「シャイニング」の原作がそうである様に
お化け屋敷映画の定石に則った正攻法の恐怖映画なのである。

恐らく伊東氏は「起承転結」のある本作品の作風を
「フルチ監督の凋落」と受け取ったのであろうが
お門違いもいいところだ。
本作品のためだけに
音楽担当をフルチ映画の常連であるファビオ・フリッツィを外し
ウォルター・リッツァートを起用してまで,
これまでとは全く違う「描きたいこと」があるのだ。
そのフルチの「決意」に僕は感動を覚える。
恐らくウォルター・リッツァートも
僕同様,意気に感ずるところがあったのだろう…。
本作品のためだけに作曲された曲の数々の荘厳さに僕は身震いする。

本作品は「地獄の門」「ビヨンド」と続いた
カトリオーナ・マッコールとの「蜜月の終わり」である事は認める。
…が!
フルチの演出力が凋落したから「蜜月が終わった」との言説には
到底首肯する事は出来ないッ!
オッマッエッはッ!
フロイトシュタイン博士の造形を見ても「同じ事」が言えるのかッ!

今こそ本作品は再評価されるべきだと僕は感じる。

4Kリマスター画質はとっても綺麗。
フロイトシュタイン博士のミソピーの様に生きながら腐って行く内臓,
ミソピーの様な内臓の中を蠢く蛆虫の煌めき,
博士に斬首された家政婦の切り株描写の鮮烈さ,
博士の生体実験に使われた
人体の内臓の生々しくキラキラ輝く「生の実感」を満喫出来る。

全く…「墓地裏の家」が
レストランでパスタをフォークでクルクルっと巻いて食べながら
見るに相応しい小粋でオシャレな映画に見えて来るから不思議だ。
コレが4Kリマスターのマジックって奴でしょうか?

ボクが今…「パスタ」と思ってるのは
4Kリマスターマジックで
素晴らしく赤く赤く発色して
湯気を立てている消化器なのにね!

「そんなもの」を4Kリマスター画質で…。
見てどおするんだよ!
これからオッ死ぬテメーがよォォォォ!
とドッビオからボスへトランスフォームする過程の如き台詞を吐く輩とは
未来永劫同じ天を仰ぐ事は出来ないのである。
オマエは不俱戴天の仇だからなッ!

特典映像はドイツ版の予告編のみという
流石のキングレコードクオリティである。

しかし…バタリアンズの音声解説を付けなかったキングレコードの
ファインプレイを褒めるべきだと僕は思うのである。

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