なぜマスコミは反医学と親和性が高いのか

正統な現代医学の知見は医学の権力(生権力)による構築物であり,その物語の語り口をかえれば知自体がかわり,そういった権力構造を転覆できる.80-90年代の大学アカデミズムで教育を受けそう刷りこまれたひとは,医学的事実に反する突飛なことを平気で発言します.たとえば新型コロナでいえば,反ワクチン,PCR全員検査とかアビガン,イベルメクチンを推したりしました.

その心情の奥には,周縁化された疑似医療や反医学の声を拡大することで,現代医学を支配している生権力を転覆したいという欲望があります.医学的にみるとあきらかな誤りであるマスコミの報道は,おそらくそういった心性からきています.頸がんワクチン反対もがん治療の忌避も,あるいは福島原発事故後の放射線への過剰な嫌悪感も,医学介入に反発し自然を賛美することも,漢方や鍼灸を無責任に推奨するのもすべてそうです.

科学的事実に異議申し立てて生権力による「文化的構築物」を無にするというのは,いわゆるポストモダン左派に共通の身振りです.そう考えないかぎり,あれほど知的レベルの高い人材をそろえているマスコミが,いつもなぜわざと医学的事実に反する内容を報じようとするのか理解できません.HPVもコロナも最初のころは,ワクチンに対する社会の不安と疑心をかきたてる報道になぜ徹したのか.

マスコミは監視役で反権力であるべきというときの「権力」の中身が,おそらくあるときから変質というか拡大したのだと思います.アカデミズムの常套句 ”The personal is political”が広まって,手ごわい国家権力や資本家をあいてにするよりも,科学や医学,教育,ジェンダー,健常者といった手っ取り早くて反撃もしないところにターゲットをかえたのでしょう.

マスコミとひとくくりにしてしまいましたが,科学部の記者などは一般医はまともで良質的な記事を書いているひとが多いと思います.反科学に毒されているのは政治社会といった文系分野のひとが多く,その世代はいまやデスク(編集)となってきています.だから福島原発事故後に生まれた子どもになにかあるとわかれば一面で報道するが,とくになにもなかったという調査結果などは報道価値がないとうそぶくわけです.

こういった思考に毒されているのはおそらくバブル世代です.バブル期は少なからぬひとが「ノマド」にあこがれてフリーターや,よくわからないカタカナ名の職業につきました.しかしその後のバブル崩壊でそういったひとはどこかに消えてしまい,唯一マスコミに職をえることができたたひとだけが上の流れを継承したのかもしれません.あと10年もすればバブル世代はすべて退場しますから,それが希望といえば希望です.

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