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【百物語】言葉のサイトで

 私は趣味でオンライン小説を書いているのだが、最近スランプというかなんというか全然書けない状態で困り果てている。趣味で書いている程度だから別に書けなくてもいいではないかと思われるかもしれない。しかし何の因果か一度小説なんかを書くようになってしまった身にとって一行も書けないというのは、まるで自分の中の何かが失われてしまったように感じられるのだ。
 小説が書けないのは刺激が足りないのではないかと思い、次から次へとジャンルを選ばずに映画を見たり本を読んだり音楽を聴いたり、苦手なスポーツをしたり、新しい恋愛に没頭してみたり、見知らぬ土地へふらっと旅に出てみたり色々してみたが効果なし。果ては怪しい薬にまで手を出す始末。まぁそれでもミューズは降りてこなかったが……。
 インターネットの検索エンジンで『小説 書けなくなったら』というキーワードで検索をかけてみると、「書き方紹介」「小説道場」「自作小説のすすめ」「HOW TO WRITE A NOVEL」「小説学校」「小説のいろは」などなど多数のサイトが見つかった。どれもこれもなかなか参考になったのだが、涸れ井戸のような私から新たな言葉がわいてくることはなかった。
 ずーっと検索結果を見ていくうちにちょっと変わったものを見つけた。そのサイトの紹介文は『言葉の泉:書けなくなったとき訪れるときっと御利益のある言葉の泉』。きっと御利益があるとはまゆつばものだがまぁものは試しだ行ってみよう。
 検索結果をクリックしたら灰色のページが開いた。文字色は黒。『ようこそ言葉の泉へ』なんて書いてある下にアクセスカウンタがあってなんか平凡な感じ。カウンタもまだ四桁ぐらいだしあまり期待できそうにないように思えた。
 素っ気なく書かれた『Enter』の文字をクリックして見ると注意書きが表示された。

『当サイトは小説や詩を書く全ての人のためのサイトです。スランプというものは誰にでも訪れる可能性のある苦しい病です。その苦しみから貴方を救い出すことが当サイトの存在理由です。それにはまず信じることが大切です。この先に表示される指示に従って言葉の泉までたどり着いて下さい。そうすれば貴方の悩みは解消されるでしょう』

 フォントサイズが馬鹿に大きく指定してあるゴシックの太文字で書かれた注意書きは胡散臭さを醸し出していたが私は『引き返す』ではなく『進む』の文字をクリックした。
 最初は国語のテストみたいなものをやらされた。ことわざや文学史、長文読解問題。なんだか学生時代に戻ってしまったような気がした。そんな問題をクリアすると最終ステージにたどり着いたようだ。
 『ここではJavaアプレットを使用しているのでブラウザでJavaの使用を許可するように設定して下さい』というウインドウが開いた。指示通りブラウザの設定を直す。
 三〇秒ぐらいしてアプレットがダウンロードされた。
 『指先の訓練をして脳を活性化しましょう』というメッセージが表示された後、タイピング練習ソフトが始まった。『私は小説が書きたい』『小説が書けるなら死んでもいい』『ストーリーが次から次へと浮かんでくる』『一時間に四〇〇字詰め原稿用紙換算で三〇枚書けた』などなど非常に偏った内容の例文を次から次へとタイプしていく。二〇ばかり打ったところでゲームオーバーになってしまった。
 『あと少しで合格です。再挑戦しますか?』と聞いてきた。ここで引き下がるのも何なので再度チャレンジした。だが今度も駄目だった。なんだか意地になってきて五回も挑戦してしまった。やっと五回目でクリアした。
 『おめでとうございます。貴方は無事試練をくぐり抜け言葉の泉に通ずる入り口にたどり着きました』
 私は『入り口』をクリックした。その先に待っていたのは黒背景に赤文字で何か書いてあるページだった。でもなんだか文字化けしてるようだった。

ニホクタホ釥ホア熙マセテ、ィオ釥テ、ソ。」、筅マ、荳��ウ、ネ、ス、�コ。」
 もしかして文字コードが違うのかと思いブラウザの文字コードの設定をEUCに変えてみた。  すると……。


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