ふるあめりかに袖はぬらさじ

六月大歌舞伎 第三部
「ふるあめりかに袖はぬらさじ」

私が歌舞伎を観始めてから東京で玉三郎さんが上演したのは2012年の赤坂ACTシアターでした。観に行った気になっていたけど、ストーリーを知っていただけだと今回の観劇で判明しました(笑)有吉佐和子さんの短編小説の戯曲化。1972年に文学座で初演され、お園役は杉村春子さんでした。

久しぶりの21時過ぎの終演です。でも面白くて、全く飽きずに集中できました。玉三郎さんの’お園’のセリフ量が膨大で驚きましたが、さらりと耳心地よく、でも言葉が心に落ちてくる感覚がたまりませんでした。お園の明るさが救いでした。

第三部はもともと仁左衛門さん玉三郎さんで違う演目が予定されていました。それが、仁左衛門さん休演に伴い、急きょ演目を変更。劇団新派の皆様との合同公演になりました。

現在の新派には、元澤瀉屋の役者さん方が多く在籍しています。2016年に月乃助さんが喜多村緑郎さんになり、春猿さんが河合雪之丞さんに。それぞれのお弟子さん方も全員ではありませんが一緒に移籍なさいました。

歌舞伎役者ではないので、以来、歌舞伎座の舞台で皆さんを拝見したことはありません。それが!合同公演になったことで、ふたたび歌舞伎座で観ることが叶うとは。疫病禍になり、こういう進化なら大歓迎です。

実際に観ると新派の役者さんが大勢いるのにびっくり!チームワーク抜群で、女優さんと女方さんが混ざっても違和感がなかった。こんなにたくさんの女優さんが歌舞伎座に出演している。。というか女優さんを観たのは初めてだと思う。

こんなに自然に受け入れられるのは、ひとえに玉三郎さんの力なのか人徳なのか。とてもすごいことだと思いました。雪之丞さん緑郎さんの懐かしい声。二人ともお声が素敵なのですよ!澤瀉屋は皆がそう。第一声にこみ上げてくるものがありました。こんな日がくるのだなぁ。

雪之丞さん演じる遊女亀遊は、消えてしまいそうな見た目に凛としたものを感じる風情。芸者お園の玉三郎さんとの掛け合いも安定で、若い藤吉と恋をしている可愛らしいところも素敵。藤吉の福之助さんが瑞々しくて好感度大!(笑)このお役に抜擢した玉三郎さんは神だと思いました。

あることから亀遊が命を絶ってしまう。そのことが時代の流れに乗り、武勇伝のように語り継がれていき店は繁盛する。伝説のようになってしまった亀遊の話を語り継ぐのはお園でした。

ラスト、お園がお客の前で話芸を披露する場面。聞いているこちらも息をするのを忘れそうなくらい圧巻でした。玉三郎さんは歌舞伎座のお客全員に語っているような迫力。

語りを聞いているうちに切なくなりました。お園は誰よりも亀遊の病気を心配し、恋を応援していた人。好奇心でやってくる人々に誇張されてしまった話を語ることは辛くないのか。

でも思ったのです。お園は心の奥で真実を大切にしていると。語り継ぐことは、時に内容が変化されて伝わっていきます。でも、真実を大切に思ってくれている存在は必ずいるのです。それでいいのだと思いました。


三階から拝見した舞台の美しさ。特に幕開きの導入部分の全体のライティングは物語に引き込まれました。舞台隅々まで玉三郎さんの息を感じる舞台でした。役者さん全員がそれに呼応していた。今回がラストかもしれないとご本人がおっしゃっています。観ることができてよかったです。有難うございました。


aya


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